創 話

□春風
4ページ/5ページ



「翔ちゃん昨日結局オフになったんでしょ?リーダーと過ごせたの?」
「それがさ、智くん既に釣りの予定入れてて」

急だったから仕方ないって言ってるけど、その横顔はなんだか寂しそうで。
どうせ翔ちゃんの事だから、我が儘は言っちゃいけないとか思ってるんだろうなって思ったら・・・


・・・ックション


クシャミが出た。
「花粉症?」
「そう。暖かくなるのはいいけどさ、大変なんだよね」

窓の外は太陽も街路樹も行き交う人の流れも、街全体が生命力に溢れていて心なしか眩しく見える。
だから翔ちゃんにも元気になって欲しくて。
俺は嵐が大好きで、嵐のみんなが大好きだから、メンバーが困ってる時は出来る限り力になってあげたいんだ。
大丈夫、翔ちゃん。
俺、翔ちゃんがどれだけリーダーの事想ってるか、ちゃんと分かってるよ。
ただちょっと、その優しさが邪魔をしてるだけ。


「翔ちゃんさ、ちょっと我慢しすぎなんじゃないの?」
「我慢・・・?」

翔ちゃんは何か考えるみたいに黙り込んでしまった。

「昨日は急で仕方なかったかもしれないけど、どうせいっつもそうやって自分が我慢しちゃってるんでしょ」
「我慢してるって意識はないけど、無理とかさせたくないんだよ」

ほら、やっぱりね。

「でもさ、それだと翔ちゃん疲れちゃうでしょ?あんまり遠慮しすぎるのもどうかと思うよ?」
「俺は別に・・・」
「本当はもっと一緒にいたいとか、こうしたいとか、思ってるんでしょ?」

翔ちゃんは何も言い返して来ない。でもその顔は何よりも雄弁に図星だって言ってるように見えた。

「思ってるだけじゃ伝わらないよ?そういうのはちゃんと言わないと」
「いや、無理だって。そんな事できるならとっくにしてる」

翔ちゃん、自分の気持ち伝えるだけでも色々考えちゃうんだろうな。
もっと一緒にいたい、って一言言えば済む事なのに。

「何でそんなに迷うの?」
「もしかしたら智くんはそんな事思ってないかもしれないだろ?」
「大丈夫だよ。リーダーそんな事で怒ったりしないって。それに都合が悪ければそういうのはちゃんと言うだろうし」
「それは・・・そうなんだけど・・・」

あぁ、じれったい。
ごちゃごちゃ考え過ぎなんだよ。
翔ちゃんて頭いいくせに本当にヘタレなんだから。


・・・ハッ、ハッ、ハッ、クション。
あ!なんか俺閃いちゃった。


「翔ちゃん!」
「な、何いきなり?」
「言葉で言えないなら、態度で示したら?」
「態度?」

言葉で直接伝えるのが翔ちゃんにとってハードル高いなら、別の方法で伝えるしかない。
お節介かもしれないけど、俺は翔ちゃんにもリーダーにも幸せになって欲しいから。

「要は伝わればいいんだから、言葉じゃなくてもリーダーが汲み取れればいいんじゃない?」

翔ちゃんは何かブツブツ言ってる。
どうせまた難しく考えてるんだろう。

「そんなの、上手くいくと思うか?」
「だから、分かりにくいのはダメ。気持ちを言葉以上にストレートに表現しないと、伝わらないだろうね」

まだ難しい顔してる。

「リーダーって感覚で生きてるような人だから、もしかしたら言葉よりその方が伝わったりするのかもしれないよ?」

あ、ちょっと表情変わった。
もう一押し。

「頭で考えてるだけじゃ、先に進めないよ?やるだけやってみたら?」

「そ、そうだよな。ちょっとやってみようかな?」

ヨシ。その意気だよ翔ちゃん!

「あ、やべ。俺もう行かなきゃ」
「ドラマ?」
「そう。翔ちゃんも今日はゼロでしょ?頑張ってね」
「おう。お前も頑張れよ」

荷物をまとめて、楽屋を出る。廊下を曲がる時、背後から翔ちゃんの声がした。

「相葉ちゃん、ありがとな!」

俺はそれに片手を挙げて応じて、駐車場へと向かった。
翔ちゃんがまた元気出してくれて良かった。
それにしても今日の俺、冴えてる。
花粉症は辛いけど、春は何かが始まる季節。
動き出した世界に、俺は一歩踏み出した。





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ