創 話

□春風
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「翔ちゃんさ、ちょっと我慢しすぎなんじゃないの?」
「我慢・・・?」

相葉ちゃんの言葉に、思い当たる節が無いわけじゃない。
ただ、我慢と言うのとは少し違っていて。
勿論、時間が許す限り智くんといたい。
だけど俺はその先を、それ以上を望んでしまうから。


「昨日は急で仕方なかったかもしれないけど、どうせいっつもそうやって自分が我慢しちゃってるんでしょ」
「我慢してるって意識はないけど、無理とかさせたくないんだよ」


そう。無理をさせたくない。
でも俺はそろそろ智くんとそういう事だってしたい。
だけど決して無理強いはしたくない。
その葛藤が、彼の予定を変更させてまで一緒にいたいと思う気持ちに蓋をする。
智くんにわざわざ時間を作らせておきながら、結局いつも肝心な事を言い出せない事に自己嫌悪に陥るから。


「でもさ、それだと翔ちゃん疲れちゃうでしょ?あんまり遠慮しすぎるのもどうかと思うよ?」
「俺は別に・・・」
「本当はもっと一緒にいたいとか、こうしたいとか、思ってるんでしょ?」

俺は何も言い返せなかった。

「思ってるだけじゃ伝わらないよ?そういうのはちゃんと言わないと」
「いや、無理だって。そんな事できるならとっくにしてる」

俺だって何度もそう思ったよ。
それが出来ないから、付き合い始めて3年以上も経つのに未だに手を握るのに精一杯。
今時中学生だってもっと進んでる。

「何でそんなに迷うの?」
「もしかしたら智くんはそんな事思ってないかもしれないだろ?」

付き合ってるとは言え男同士でそんな事、万が一考えもしていなかったら。

「大丈夫だよ。リーダーそんな事で怒ったりしないって。それに都合が悪ければそういうのはちゃんと言うだろうし」
「それはそうなんだけど」

だからって、俺はあなたとセックスしたいと思ってますが如何でしょうか?なんて面と向かって聞けるかよ。
健全な成人男性が3年以上もそういう展開にならないなんて、する気がないからじゃないのか?
女の子とは経験あるみたいだから、そういう行為を知らないわけじゃない。
やっぱり、そういうのは女の子とするものであって男同士でするなんて発想が無いのかもしれない。
そんな人に、俺はしたいんだと言ったらどう思われるだろう・・・。



「翔ちゃん!」
「な、何いきなり?」
考えに没頭している俺に相葉ちゃんが目を輝かせて言った。

「言葉で言えないなら、態度で示したら?」
「態度?」

態度、と言いますと?

「要は伝わればいいんだから、言葉じゃなくてもリーダーが汲み取れればいいんじゃない?」

そうか。俺が提示するものに対して智くんがどんなリアクションをとるのか。
それで彼がどう考えているのかが、少しは分かるかもしれない。
でも・・・

「そんなの、上手くいくと思うか?」
「だから分かりにくいのはダメ。気持ちを言葉以上にストレートに表現しないと、伝わらないだろうね」

ストレートに、と言ってもな。

「リーダーって感覚で生きてるような人だから、もしかしたら言葉よりその方が伝わったりするのかもしれないよ?」

言葉より?
確かに、変に言葉を選んで遠回しに言うより智くんには伝わりやすいのかもしれない。

「頭で考えてるだけじゃ、先に進めないよ?やるだけやってみたら?」

「そ、そうだよな。ちょっとやってみようかな?」

いつも考え過ぎて尻込みしてきたけど、そろそろ次のステージへ進むのもいいかもしれない。
なんだか少し、勇気が湧いてきた。
相葉ちゃんて、こういう所あるんだよな。
天然で天真爛漫で、そんな相葉ちゃんに今までだって何度も救われてきた。
今日、相葉ちゃんと話せて良かった。


「あ、やべ。俺もう行かなきゃ」
「ドラマ?」
「そう。翔ちゃんも今日はゼロでしょ?頑張ってね」
「おう。お前も頑張れよ」

楽屋から相葉ちゃんを見送って、廊下を曲がる彼に感謝を込めて言った。

「相葉ちゃん、ありがとな!」



そして俺は新しい季節の始まりを感じながらそれまで履いていたパンツを下着ごと脱いだ。





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