創 話

□マグワフナミ
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適温に設定したシャワーが、肌に残っていた残滓を洗い流していく。
それでも智くんが付けた紅い痕は流されず肌に留まって。そこにそっと指先で触れようとした時、ドアが開いて先に出たはずの智くんが入って来た。
腰にバスタオルを巻いただけの姿で、濡れる事も構わず黙したまま俺との距離を詰める。

「どうしたの?」

顔を覗き込んで問い掛けると、唇を尖らせ視線を彷徨わせて、

「何、まだ足りない?」

揶揄するように聞くと目を合わせないまま小さく頷いた。
言葉の代わりに腕を伸ばして、彼の身体を濡らしていくシャワーの水滴を追うように脇腹に掌を滑らせる。
しなやかな筋肉に沿って撫で上げ、辿り着いた胸の尖りを指先で摘み弄ぶと、シャワーの音に紛れて微かな声が耳に届いた。

「ぅあっ」
「可愛い、智くん」

耳元に唇を寄せて囁き、俯く顔に手を添えて上向かせると、その顔はほんのりと色付いていて。

「智・・・可愛いよ」
「ん、ぅはっ・・・っ」

降り注ぐシャワーに打たれながらくぐもった声を漏らす唇を啄み、差し出された彼の舌を口に含んで軽く咀嚼する。

「ふ、っんんっ」
「っん・・・はぁ、」

息を継ぐ隙間から流れ込む温水が呼吸を乱し、荒い息遣いに口付けは更に激しさを増して、深く絡み縺れ合うように互いの身体に溺れていく。
蕩け始めた智くんの身体を壁に押し付け、濡れて貼り付いているタオルに指を掛けると、束縛は簡単に解けて床へと落ちた。
顕になった彼のものへと手を伸ばす。

「俺のも、触って?」

肩に置かれていた彼の手を自分のそこへと導くと、その手は淀み無く俺自身を掻き扱いて。
交わす口付けと嬲り合う手で、燻る互いの熱を加速させていった。

「いい?挿れるよ?」
「ん、ぁあ・・・は、んっ」

振り向かせ、後孔に突き立てた屹立を一気に押し込むと、既に濡れて緩んでいるそこは抵抗する事無く俺を奥へ奥へと貪欲に受け入れた。

「あっ、っ・・・うぁっ・・・はぁ・・・」
穿った肉塊で智くんの中を攪拌しながら、態と音を立てて耳を食み水滴を啜り、尖らせた舌先で溝を辿っては窪みを執拗に嘗め回す。

「はぁっ、あっ、ヤだ・・・っ止め、て」
「嫌なの?」
「ん、うっ・・・それ、やだ・・・」

ふるふると首を振って止めて欲しいと訴える智くんの身体は、言葉とは裏腹に快楽の色を濃くして俺の欲情を煽り、強請るように責め立てて。

「感じてるくせに」

前へと伸ばした手で大きく主張している智くん自身の先端に爪を掛けて引っ掻き、羞恥で紅く染まった耳を甘く噛んで、再度舌を捩じ込んだ。

「はぁっ、アァ・・・っ!!ヤッ、やめっ、あぁっ・・・はぁっ・・・」

湯気の立ち込める浴室に荒い息遣いと矯声が響き、智くんの濡れた喘ぎ声が四方から反響して軽い譫妄感を引き起こす。
近いはずのシャワーの音は遠くなり、下肢に蟠る熱と繋がっている感覚だけがやけにリアルに感じられた。

「ッ智くん、」

智くんの腰を引き寄せ前屈みにさせると挿入は更に深くなり、俺を受け入れる胎内は律動に合わせるように収縮を繰り返してきつく咥え込んだ。

「あっ、はぁ・・・ァ、ん・・・あぁ、」
「智くん・・・好きだよ、愛してる・・・」

背中に押し当てた唇で告げ、一度強く吸い付いてから身体を起こすと、衝動に駆られるまま何度も叩きつけるように奥を貫いた。

「あっあっ、翔くっ・・・はぁっ、翔っんん・・・あぁっ」
「っ智くん・・・はぁ、っ」

壁についた腕で衝撃に耐える智くんの中を穿った切っ先で激しく突き上げ、張り詰めた智くん自身を強く掴んで荒く扱くと、胎内の柔襞が噛み付くように締め付けて、乱れる嬌声が俺を容赦なく支配して。
攻めているのか攻められているのか判然としなくなる程、交わり、蕩け合い、まぐわい合う。

「ああっ、はぁ・・・あっ、んっ、翔くん・・・」
「うん、っはぁ、・・・っ俺も、」
「翔く・・・あ、あっ・・・あああっっ・・・!!」

智くんが一段と高く啼き、弓形に撓った直後。
俺の手中にドロリとした熱が吐き出され、俺も智くんの中へと欲の証を注ぎ込んだ。






バスタブに浸かり、水滴の滴る智くんの襟足を眺めながら尋ねる。

「ねぇ、最近やけに積極的だけどどうしたの?」
「・・・別に。なんとなく、そういう気分なだけだ」
「そうなの?でもなんか、」
「あっちー、もう限界。俺、先出るから」

言いながら、智くんは浴室を出て行った。
振り返る事無く答えていた彼がどんな表情をしていたのか。
行為の中で見せたあの表情が何を意味してしたのか。
この時の俺はまだ、何も理解っていなかった。





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