創 話

□Calling You
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相葉氏に電話する事を諦め、試しに時報の番号にかけてみた。117。

『おかけになった電話番号は現在使われておりません』

女性のアナウンスが聞こえてきた。
次に、天気予報。177。

『おかけになった電話番号は・・・』

電話番号案内。104。

『おかけになった電話番号は・・・』

電報、消防署、警察、自宅、現実の世界にある様々な電話番号を押してみたが、どれも結果は同じだった。数字を適当に押してみても、変わらず流れる無機質な女性のアナウンス。この声の女性は一体誰なのか。
何回か同じアナウンスを聞かされた後、これで繋がらなかったら諦めようと11桁の番号を押した。期待せずに待っているとすぐにそれまでとは違い呼び出し音が聞こえ、不意を突かれた俺は誰も見ていないのについ居住まいを正していた。
もしかして相葉氏だろうか。

『もしもし』

自分や彼よりも少し大人な感じのする男性の声だった。
しかしこの人物もまた俺が作り上げた人格である可能性もある。

「あの、突然電話してしまってすみません。二宮と言います」

『ううん、いいよ。どうせ暇だったし。俺は・・・櫻井翔』

彼は突然の電話にもかかわらず快く応じてくれた。

『二宮くん、戸惑ってるみたいだけど、もしかしてまだ頭の中の電話に慣れてないんじゃない?』
「えぇ、まぁ、はい。想像してただけの携帯がこんな事になって、意味が分かんなくて・・・」

俺は彼に、相葉雅紀という人物から電話があった事も説明した。

『俺も最初は自分がおかしくなったと思って病院に行こうかと考えたけど、でも大丈夫だから』

彼は今大学生で、彼もまた頭の中にある携帯を使って話していた。
彼の声は優しく落ち着いていて、混乱しかけていた俺を安心させるように話してくれた。

『俺もそうだったから分かるんだけど、その相葉くんや俺の事、自分が作り出した架空の存在じゃないかって疑ってるでしょ?』

少しからかうように言われて、心を読まれたかと思った。
彼はその考えが間違いだと言い、自分たちが実在している事を証明する方法を教えてくれた。

『今度相葉くんから電話がかかって来た時に、今教えた方法を実行してみるといいよ。相葉くんが本当に実在してるって分かるから』
「本当にそんな回りくどい事を試すんですか?」
『実はもっと簡単で手っ取り早い方法もあるけど、それはまだ教えない』
「でも、もうかかって来ないかもしれない」

絶対にかかってくるとは限らないのだ。

『くるよ、絶対』

何の根拠があるのか分からないが翔さんはそう断言し、この見えない電話回線について知っている事を色々と教えてくれた。
例えば、実際に口で喋ったり周りで発生した音はどんなに大きな音でも頭の電話の向こうには伝わらない。頭の電話に向かって、心の中で話しかけた事だけが相手に伝わる。
また、ほとんどの場合電話の持ち主は自分の電話の番号を知らない。電話帳や電話番号案内のようなものは存在せず、知らない相手にかけるには偶然に頼るしかない。
かかってくる電話番号はいつも非通知になっていて、その設定は変えられないらしい。
更にもう一つ、重要な事を教えてくれた。

『いい?よく聞いて。電話の向こうとこちら側とでは時間がズレてる事がある。そっちは今何年の、何月何日?』

そこで俺と翔さんの間には数日間のズレがある事を知った。
信じ難い話ではあるが、彼は今の俺よりも数日未来の世界で話しているらしい。

「これは電話する度に確認した方がいいの?」
『時差は一定のままだからその必要はないよ。電話が切られていても、二宮くんの時間が5分経過したら、相手の時間も5分経過してる』

何故このような時差があるのか、それは翔さんにも分からないらしい。

『また何かあったら遠慮しなくていいから、いつでも電話してよ』

俺には翔さんのその言葉がとても嬉しくて、不安だった心がスッと軽くなっていった。





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