創 話

□Il Conclusione
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夕焼けに染まる部屋に、カップをテーブルに置く硬い音がやけに大きく響いた。

「そんな顔しないでよ」

もう終わりにしよう、と告げた俺に、松本は困ったように笑う。

「なんとなく、覚悟はしてたんだよね」

笑ってみせるその顔はどう見たってぎこちなくて、直視できなかった。

俺は昔から智くんが好きで、ずっと彼だけを見ていた。
だけど一途に想い続けた俺の恋心は、成就する事の無い現実を突き付けられて行き場を失くして。
そんな時松本が、俺の事を好きだと言った。
俺が智くんを想っていたのと同じように、ずっと俺を好きだったと。
勿論、最初は受け入れるつもりなど無かった。
松本の気持ちが真剣なものだと分かっていたから。
だからこそ、俺が中途半端にそれに応える訳にはいかない。応えてはいけない。
それなのに。
俺が智くんへの想いを断ち切れずにいる事も承知の上で、それでもいいと。それでも俺の傍にいたいと松本は言った。

「ごめん」
「翔さんが気にする事じゃない。俺が、翔さんの弱味に付け込んだんだから」

違う。俺がお前の気持ちを利用して甘えてたんだ。
自分勝手に甘えて、利用して、傷付けた。

「本当に、ごめん」
「謝らないで」

こいつを好きになれたら、とずっと思ってた。
だけど、どれだけ一緒にいても、何度身体を重ねても、松本の気持ちに応えるどころか傷付けているようにしか思えなくて。
抱けば抱く程、笑ってくれればくれる程、俺は罪悪感に苛まれた。

「俺、」
「もういいから」
「でも、」
「もういいって」
「ごめ」
「もういいって言ってるだろっ!!」









「・・・・・・ごめん。でも本当、いつかはこうなるだろうって、分かってたから。それでも望んだのは・・・俺の方だから」

脱いでいたジャケットを手に取って、立ち上がる。

「今までありがとう。明日からまた、メンバーとして宜しく」

わざと明るく言う松本の声は明らかに震えていて、俺の胸を鋭く抉る。
これ以上傷付けたくなくて出した結論は、彼を傷付ける事しか出来なくて。

感情が重くのしかかって身動きが取れずに、俺の部屋を出て行く頼りない後ろ姿が俺を置き去りにする。
松本の手がノブにかかり、それまで室内を満たしていたものを洗い流すかのように外気が侵入した。

開かれたドアがスローモーションのように閉じていき、音を立ててまた内と外とを隔てる。

その残響が消えて、静寂が俺を襲う。


まだ、今なら。


今ならまだ間に合うかもしれない。


突き動かされるまま駆け出して靴も履かずに玄関に降り、ドアノブに手を掛ける。




開かない扉の内側。

滲む世界に、崩れ落ちた。






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