創 話

□バレンタインズデイ・キス
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「お疲れ様」

仕事が終わって向かったのは、自宅ではなく松本のマンション。
玄関で出迎えてくれた松本が当たり前のように鞄を受け取り、俺も当たり前のように空いた手でネクタイを緩めながらリビングへと向かう。

「これ、今日の戦利品?」

振り返ると松本は小さな紙袋を覗き込んでいた。

「あぁ、それ妹から。今日空き時間にちょっと会ってさ。スタッフとから貰ったのはマネージャーに全部渡してきたけど身内からのはさすがにな」
「手作り、ではないのか」
「あいつも最近忙しいみたいだからな。それだって多分ついでだよ」

苦笑しながらソファーに座り、紙袋から出した小さな箱を手に取る。
綺麗にラッピングされたそれは有名店のもので、中身もそれに見合った綺麗な色と形をしていた。
自分で作った少々いびつなチョコレートを、失敗したからと俺にくれた学生の頃をふと思い出しながら1つ摘まんで口に入れると、溶け出したチョコレートが程よい甘さを口の中に広げた。

「あ、うめぇ」
「この店のなら間違いはないよね。俺も1個貰っていい?」

箱に伸ばされた松本の手を掴んで、すぐにもう片方の手を後頭部に。
有無を言わさず無理矢理顔を引き寄せて、突然の事に驚いている唇を塞いだ。
逃げようとする頭を押さえ付けてだいぶ形を変えてしまったチョコレートを押し込むと、溶かすように口内を掻き回して塗り付けるように舌を絡める。

「っ、ふっ・・・」

漏れる吐息はいつもより甘くて、いつもより熱い。

「んっ・・・」
「・・・はぁっ・・・」

厚くて弾力のある唇の、外側も内側も。熱い口内の濡れた粘膜も、硬い歯列も。隅々にまで舌を這わせて、溢れる唾液を吸う。
チョコレートが無くなっても離さずに、激しく、濃厚に。
抵抗していた手はいつの間にか俺のシャツを掴んで、重ねた唇からももう戸惑いはなくなっていた。

「んっ・・・はぁっ・・・」

それでも、解放すると上目遣いで軽く俺を睨んで。

「味、どうだった?」

そう聞くと、目を合わせないようにしてボソボソと呟く。

「・・・よく分かんなかったから・・・もう1回・・・」

真っ赤に染まった耳に顔を近付けて、

「仰せのままに」

低く囁いて、俺は2つ目のチョコレートへと手を伸ばした。






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