創 話

□春風
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楽屋に入ると、翔くんがいた。

「おはよ」
「おはよう、智くん」

にっこりと笑って翔くんはまた新聞を読む。
俺はその向かいに座って、翔くんが読んでいる新聞の一面の見出しを眺めた。
俺には分かるようで分からない文字の羅列。
でも翔くんはちゃんと理解しているんだろう。
翔くんは頭がいい。
でも、時々そんな翔くんが分からない。


「智くん」
「ん?」
「昨日どうだった?」

昨日は翔くんも休みだったのに、翔くんと過ごす事よりも釣りを優先した。

「まぁ、ボチボチかな。ていうか、ごめんな」
「いいんだよ、俺オフになったの急遽だったし。元々釣り予定してたんでしょ?俺は気にしてないから」

翔くんの誘いを断った時本当は一瞬残念そうな顔してたの、俺は気付いてた。
それでも翔くんは俺を尊重してくれる。
俺の趣味の時間を邪魔しようとはしない。
翔くんは優しい。
だけど、やっぱり翔くんが分からなくなる時がある。


新聞を畳んだ翔くんは、鞄からノートパソコンを取り出して何か作業を始めた。
調べ物をしているのか、何か書いているのか、反対側にいるから何をしているのかは分からない。
でも、その長い指で唇を弄るのは集中している時の癖。真剣な眼差しは知性的な中にも鋭さがあって、俺はその顔が好きだ。
翔くんは、イケメンだと思う。
でも。どうして、翔くん?


窓からは春の暖かな日差しが射し込み、風が優しく頬を撫でる。
ドアを隔てた向こうからの音は別世界のように遠い。


今、楽屋には二人きり。


さっきからずっと気になってる事、思い切って聞いてみようか。

「あ、あの、翔くん・・・」
「ん、何?」
「ちょっと、気になる事があんだけど・・・」
「どうしたの?」

窓から射し込む日差しに負けないくらい、翔くんが柔らかく微笑む。

「なんで・・・」
「うん」
「なんで、下半身丸出しなの?」


翔くんは微笑みを崩さないまま、ゆっくりと視線を窓の外へと向けた。





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