創 話

□イグナイテッド
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「ぁん・・・ぁ、っ・・・」

向かい合った翔くんの腿に跨がって、緩やかに腰を動かす。
性急な快楽に溺れるのではなく穏やかな刺激に揺られながら、繋げた身体に生まれる甘い痺れを味わうように、ゆっくりと。
それでも、下肢から伝わる鈍い疼きは少しずつ神経を炙り、逆撫でて、呼吸に混ざって洩れ出る吐息を甘く濡らしていった。

「・・・っ、ぁんっ」
「智くん・・・」

動きにつられて内側を擦る翔くんの切っ先と、密着した粘膜を引き摺られる感覚が喉を震わせ空気を震わせて、耳に届く自分の声と二人の間で生まれる卑猥な水音が身体を芯から熱くさせる。

「あっ、ぁん・・・っはぁ・・・」
「智くん」

深くなっていく快感に呼吸が乱れ始めて翔くんの手が俺の背中を優しく撫でると、その温もりすらも全身に伝わる痺れを加速させて更に苦しくさせるのに、呼ぶ声は艶を含みながらも変わらず柔らかくて、その表情にはまだ余裕が窺える。
自分だけが追い込まれているようで、面白くない。

「なんか、ムカツク」
「何が?」
「、っ・・・その顔」
「顔?何で?」

その余裕を失くさせて、あの翔くんに会いたい。
沸き出した衝動に、肩に置いていた手で苦笑する頬を包んで上向かせる。
塞いだ唇を深く重ねて歯列を捻じ開け舌を絡ませたまま生温い唾液を嚥下して、飲みきれなかった雫が口端から溢れるのも構わずに翔くんの唇を食み、差し込んだ舌で舐め回した。

「んんっ」
「、はぁっ・・・」

唇を合わせたまま下肢に力を入れ、俺の中にいる翔くんを締め付けて揺すると彼の低い声と吐息が口の中にじわりと広がって。
それを飲み込み音を立てて唇を離すと、唾液に塗れた赤い唇が灯りを反射して耀いていた。

「なんで、そんな余裕なの」
「余裕?何言ってるの。あなたとこうしてるのに、」

繋がっている身体を強引に押し倒されて、今まで見下ろしていた翔くんが俺を組み伏せ、見下ろす。

「余裕なんてあるわけないじゃない」

ほら、分かるでしょ?と翔くんが揺らす昂ぶりはさっきよりも質量を増して胎内を圧迫しドクドクと脈打って、表情には険しさが滲んでいる。
でも、まだこれじゃない。
俺が見たいのは。

「違うよ、翔くん。まだだ」

意味が分からずに無言で疑問を投げかけてくる翔くんを挑発するように見つめたまま、より深い場所へと誘う為に脚を絡め腰を引き寄せる。
少し戸惑う素振りの翔くんの、収まりきっていない根本へと伸ばした手は身体の内から直に伝わってくる彼の熱で、指先まで熱い。

「っうぁ、」
「翔、くん」

出来る限り胎内を収縮させながら腰をくねらせ、伸ばした指を二人を繋ぐそれに巻き付けて強く擦ると、翔くんが眉間に皺を寄せて目を閉じ、深く息を吐いて俺の肩口に顔を伏せた。

「っ・・・ぁ、はぁ・・・」

自分の中の疼きをなんとかやり過ごしながら咥え込んでいる翔くん自身を煽って、汗ばむ肌を舌でなぞっては空いている左手で翔くんの腰骨から脇腹、更に肩甲骨へと辿っていく。

「・・・さとし、くっ・・・っはぁ、」
「翔くん・・・」

小さく痙攣するように反応した場所を執拗に撫で、名前を呼び、耳を軽く噛む。
白い肌に紅い印を付けて、徐々に息を荒げていく翔くんの、特に弱い所ばかりを態と狙って刺激を与え続けていくと、身を震わせて掠れた声を零して。

「、っあぁ・・・はぁ・・・智、」

顔を上げた翔くんの目はまるで欲を塗り固めたような色に染まり、滾る熱は全てを溶かしそうな程熱いのに、眼光は冷酷にさえ見える程鋭く攻撃的。
翔くんの理性の奥にあるものが綯い交ぜになり、剥き出しになって底光りして、獰猛な息遣いが肌を掠めた。
この翔くんは俺の前でもたまにしか姿を現さない。
多分誰も見た事の無い、俺しか知らない翔くん。
その翔くんに押さえ付けられ、射抜くように見下ろされて、手加減無しで乱される予感がビリビリと全身を駆け抜けた。
身体が微かに震え、胸が高鳴って、ほんの少しの怖じ気とそれ以上に膨らむ期待に、思わず笑みが零れる。

「ふふっ」
「何が可笑しいの?」
「本気の翔くん」

俺の言葉に目を細め、嘲笑うように軽く鼻を鳴らすとギリギリまで引いた腰で一気に翔くんが俺を貫いた。

「んぁ、っあぁっあっ・・・っく・・・」
「っ・・・んっ、ぅ・・・」

強い力で絶え間なく最奥を抉られ容赦無く突き上げられて、電流のように走る鋭い痛みに解れていたはずの身体が強張る。
深く息を吐こうとしても、腰を打ち付けられる度に受け止める場所が軋んで呼吸が止まり、掠れた悲鳴ばかりが漏れた。

「っく、・・・っ、ぁ・・・っっ」

荒い息遣いと痛みに耐える微かな声、滲む体液の粘つく音と肌のぶつかる音が室内を満たす中、痛みに萎えていた中心をきつく掴まれ上下に扱かれて、身体が勝手にビクビクと跳ねる。

「うっ、はぁ・・・あっ」

抵抗する胎内を無理矢理抉じ開けられる痛みが少しずつ快感に変わるにつれて、乾いた悲鳴がまた熱を帯び濡れ始め、自分でも驚く程の艶声へと変わっていった。

「あ、はッ・・・ああぁっ、あっあぁ・・・っ」

翔くんがくれる狂おしくて強烈な快感に飲み込まれながら揺れる視界の中で見上げた彼は、普段ならどんな時でも俺を気遣ってくれるのにそれさえも忘れて行為に没頭している。
真面目な翔くんも、みんなから弄られてる翔くんも、優しい翔くんも、どの翔くんも好きだけど、この、形振り構わずに俺を抱く時の翔くんが一番好きかもしれない。
こんな翔くんが見られるのは俺だけなのだと思うと、手荒く乱暴にされていると言うのに痛みよりも愛しさが胸を刺し、どうしようもなく幸せな気持ちが胸を満たした。
その途端、身体は益々敏感になり些細な刺激にも怖いくらい従順に反応して、余計な事はもう何も考えられなくなって。

「っは・・・あっ・・・あっ、しょ・・・くん、あぁっ」
「・・・っ、はぁ・・・ァ、んっ」

もっと近くで感じたくて翔くんへと腕を伸ばすと、その上にポタリと彼の汗粒が落ちた。
どんな小さな欠片さえ無駄にしたくなくて腕についた水滴を舌で舐め取ると、手首を掴み押さえ付けられて、開いた唇に翔くんが齧り付く。
角度を変え何度も吸い上げられて、汗と唾液で濡れた唇が俺を蕩かして。

『好きだよ翔くん、大好き』

儘ならない呼吸の中、重ね合わされた翔くんの唇に直接告げると打ち付ける腰の動きが激しさを増し、翔くんの鼓動が俺の中に響いた。
奪い合い溶かし合う唇も、密着する汗ばんだ肌も、打ち込み受け入れて繋がる下肢も。
絡み合う身体の全部を暴かれ、掻き乱されて。
そのうちに自分の身体の感覚が無くなり、感じるのはただ翔くんの体温だけになった時、強い射精感に襲われ熟れきっていた昂りが限界を越えた。

「っ・・・くっ・・・ッああぁっ・・・」
「んっ・・・はぁ、っ
・・・」

その直後、俺の中にも熱いものが注がれて、胎内にじわりと広がる。
吐精を終えた自身を翔くんが引き抜くと、ぬるついた体液が溢れて繋がりの解けた場所を濡らした。

「 しょ・・・く・・・」

喘ぎ過ぎて渇いた喉では「愛してる」と伝えられなくて、代わりに笑いかける。

「俺も、愛してるよ」

愛しさと満足感に満たされて遠退いていく意識の中、いつもの翔くんの温かい掌に包まれて、ゆっくりと目を閉じた。






 

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