創 話

□黎明
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目が覚めても、昨日からの雨音はまだ続いていた。伸ばした腕でカーテンを少し開けると、案の定大きな雨粒が窓を濡らしている。
気怠い身体を起こして視線を巡らせれば、脱ぎ捨てられた衣服が床に点々と落ち、閉まりきっていないドアの向こうの薄闇に発泡酒の缶が転がっていた。
ベッドを抜け出して起き抜けのフラフラとした足で散乱する衣服の間を進む。
冷蔵庫を開けても喉の渇きを癒せるものが見当たらず、テーブルの上の缶を軽く振ってまだ残っていた中身を喉に流し込んだ。
温くなり炭酸の抜け切った発泡酒の、この上無く不快な喉越しに思わず顔を顰めてまたベッドへ戻ると、隣で眠っていた松本も目を覚ました。

「・・・ん・・・翔、さん?」
「悪い、起こした?」

小さく首を横に振った松本が、覚醒しきっていない目で俺を見上げ言葉を発する。
その声が掠れているのは寝起きだからと言う理由だけでは無かった。

「今、何時?」
「まだ5時過ぎ」

横向きに眠っていた松本と向かい合うようにブランケットに潜り込むと、色濃く残る情交の痕の生々しさに、眠っていたはずの劣情が下腹の底で鈍く疼き出して目が離せず、思わず息を飲む。
視線に気付いた松本が俺に背を向けようとするのを、抱き締めるように腕を廻して引き止めると、思いの他あっさりと思い留まってまた元の位置に落ち着いて。
抱き寄せた胸元に顔を埋めると乾いた体液の独特な匂いが鼻を掠めて、劣情の波がまた、身体の中で揺らめいた。

「まだ早いから、もう少し寝といたら?」
「あぁ、そうだな」

俺の、全く気の無い返事に呆れたように松本が続ける。

「あんまり寝てないんだから、仕事に差し支えるよ?」
「分かってる」

この所擦れ違いばかりで、仕事でさえ顔を合わせる機会が減っていた。
昨日は久しぶりに二人とも早く終わって、食事もそこそこにどちらともなく奪うように求め合って、散々交わって、狂ったように快楽に喘いで。
何度目かの絶頂で力尽きて堕ちるように眠りについてから、時間はそれ程経っていない。

「体調管理も仕事のうちだろ」

そう言いながらも、俺に触れる松本の手も明らかな意図を持って肌の上を滑っていく。
その手が少し熱いのは、持て余す熱が滲み出ているのだと容易に感じられた。

「お前こそ、朝弱いんだから無理すんなって」

俺も言葉とは裏腹に、つい数刻前に自分で付けた印を一つ二つと辿っては、また新たな印を落としていく。
その度に間近に感じる鼓動が早くなり、徐々に上がっていく体温も手に取るように伝わって、衝動が熱を押し上げて。

「言ってる事とやってる事が矛盾してるけど?」
「お前もな」

一旦肌から唇を離し仰向けにさせると、薄く微笑う唇を上から塞いて何度か啄み、形を確めるように舐めて、唇の内側も舌先で丁寧に愛撫する。
離した唇の間を混ざり合った唾液の糸が繋いで消えて、薄く開いた松本の目が、甘く潤んで俺の欲情を煽った。

「いい?」
「止める気なんて無いクセに」

揶揄う松本に小さく苦笑して、応酬する。

「拒む気も無いんだろ?」

再び口付け、滑り込ませた舌で歯列を割り、迷わず絡み付いてきた舌を噛み扱いて、纏わせた唾液を音を立てて啜りながら掌で身体のラインを辿っていく。

「っん・・・んんぁ、」

耳の裏から首に沿って鎖骨へ。胸で突起を軽く摘まんで脇腹を降りると、腰骨を後ろから前へとなぞり、滑らかな太股を往復して内腿を撫でる。
俺を受け入れる為に自ら開かれた両脚の、その奥にある秘部に触れると名残でまだ柔らかさを残すそこは簡単に解れてすぐに熱く蕩け出した。

「っ、あぁ・・・ぅ」

波打つように収縮する胎内に挿し込んだ指で中を掻き回し、抜き挿しを繰り返しながら指を増やして孔を拡げて。
指先がある一点を擦ると、腰が跳ねるのに合わせて頭を擡げた松本自身が揺れた。
滲み出る蜜を搾り取るように、それを喉奥まで銜え込んで根本から先へと吸い上げていく。
俺の与える刺激に、俺の髪を掴む松本の手と腹筋は緊張と弛緩を繰り返した。

「んっ、あぁっ・・・はぁ、」

前と後ろ。弱い場所の両方を同時に攻められて、恍惚の表情でしどけなく開いた口から絶え間なく濡れた声を吐息を漏らす松本が、次第にもどかしそうに身体を捩り始めて。

「っ、翔さん・・・もう、いいから」

早く、と欲しがる表情に俺の熱が加速していく。
熟れきった屹立を根元まで胎内に埋めて、それだけでせり上がって来る快感に深く息を吐き出した。
全身を染めていく熱に蝕まれながら緩々と腰を動かして、ドクドクと脈打つ楔を絡み付く粘膜に刻み込む。

「うっ・・・ぁん、」
「はぁ、ぁ・・・潤っ」

緩い律動を繰り返しながら窓の外へと目を向けた。
雨はまだ止む気配が無い。
それでも空は薄く白み始めて、もうすぐ夜が明けようとしている。

「どうしたの?」
「ん、何でもない」

汗で前髪の張り付く額に口付けると、松本の腕が俺の背中を包んだ。
ぬかるむ切っ先で柔襞を深く抉る度に、うねる身体が俺を締め付けて快楽を深くしていく。
朝になればまた、擦れ違いの生活が始まる。
次にこうして抱き合えるのは、また当分先になるだろう。
だから今は。
隙間無く重ねた肌を溶かし合い、絡めた四肢で奥深く繋がって、腕の中の熱を自分の身体に刻み込んでいく。
夜が明けるまでもう少し。
どうかそれまでは、この温もりに溺れさせて。







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