創 話

□Life goes on
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誕生日とクリスマスはともかく、付き合って何ケ月記念とかそういうのはしない。
恋人との記念日は誕生日とクリスマスぐらいでいい。
そう公言している翔さんは、その言葉通りやたらと記念日を設定して態々祝ったりはしない。
それどころか誕生日やクリスマスでさえお互い仕事をしている事も珍しくないから、そんな日に二人で過ごす事自体多くはないけれど。
それでも、覚えていないわけではないらしい。

「もう少しで5年か。付き合い始めてから」

ふと、カレンダーに目を留めた翔さんがポツリと言った。
あと数日で、恋人として付き合い始めてから5年目を迎えようとしている。

「じゃあ、今日は何の日か分かる?」

なんとなく。
本当になんとなく悪戯心が芽生えて。

「え、今日?今日何かあったっけ?」

翔さんはカレンダーを眺めながら小難しい顔をした。
きっと今、彼の頭の中ではもの凄い勢いで記憶の検索作業が行われている。

「俺らに関係する事?」
「まぁ、そう・・・なると言えばなる、のかなぁ?どうだろ?」

煮え切らないヒントにもお構いなしで、翔さんは記憶を辿って。

「付き合い始めた日じゃないなら・・・誕生日でもないし、一緒に暮らし始めた日?違うな、今日じゃない」

他にも、初めてキスした日、初めて喧嘩した日、初めて二人で旅行に行った日、初めてセックスした日と翔さんは次々と候補を上げては、自分でそれらを否定していく。
俺が思っていた以上に些細な出来事まで覚えてくれていて、俺はコーヒーの入ったカップに口をつける事で、綻んでしまう顔を見られないように隠した。

「俺とお前が初めて出会った日?」

不意に振り向いた翔さんと真っ直ぐに目が合って、跳ねた鼓動を悟られないよう自然を装って目を逸らす。

「それも違うよなぁ。他にヒントは?」
「もう教えない、あとは自分で考えて。俺そろそろ仕事行くから」
「えーっ、マジかよー」

空になったカップを片付け、出掛ける準備を済ませて、行ってきます、と一声掛けて家を出た。
彼はいつまで粘って考えるのだろうか。

でも。

どんなに考えても、翔さんには分かりっこない。

だって今日は、あの頃のまだ青臭かった俺が、持て余す気持ちの正体を知った日。

俺は翔さんの事が好きなんだと、戸惑いながらも初めて自覚した日なんだから。







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