創 話

□DOWN TO YOU
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「どうしたの?何かあった?」

ほんの少しだけ、なんとなく普段と違う彼の様子が気になって。上着も脱がず床に膝をついてその顔を覗き込んだ。
次の瞬間、柔らかな感触が俺の唇に重なりそれはすぐに深くなって、熱い舌が乱雑に口内を行き交う。
どうしたのかと再度問おうとしても、後頭部に回された彼の手がそれを許さなかった。呼吸さえ、儘ならない。

何時にない性急さに戸惑いながらもそっと背に腕を回せば、そのまま固く冷たいフローリングに押し倒されて。
至近距離で見上げる彼の瞳が鈍く光り、ぞくりと背筋が震える。

「ちょっ…待って!智くん…んんっ・・・はぁ、ぁ・・・」

抗議の言葉すらも奪って飲み込む程、激しさを増した口付けに翻弄される。
髪に絡んでいた彼の右手が襟元に移動し、乱暴にネクタイを掴んで、引いた。

「・・・っ、ちょっと・・・」

それを阻止しようと重ねた手は、彼のもう一方の手に捕われ、床に押し付けられて。
結び目が解けて引き抜かれた時には、スーツが皺になるとか、明日の仕事の事とか、そんな事はもう、どうでも良くなっていた。


「・・・ん・・・っ、はぁ・・・ぁ・・・」

「ぅ、んんっ・・・っは、・・・はぁ・・・あっ、っはぁ・・・」

何度も角度を変えながら浅く、深く。
確かめるように舌で辿って、甘く噛んで。
息も熱も、何もかもを与えて、奪われる。

2人分の唾液が混ざり合う音と2人分の荒い息遣い。それとは明らかに不釣合いなメロディが気になり、顔を傾けてそれを流し続けているスピーカーに目を遣ると、耳に湿った温かさを感じた。

「っ、はぁっ・・・翔くん、・・・っ・・・」
「んん、っあ・・・は・・・ぁ・・・ぁぁ」

頭の中にダイレクトに響く濡れた音と、肌を擦るザラついた感触、彼が漏らす熱い吐息と、名前を呼ぶ切なく掠れた声が脳を直接犯し、甘く痺れて溶けだす。
その麻薬のような感覚に酔いしれていると、耳への投薬はそのままに唇に冷たい手が触れて、歯列の隙間から細く長い指が差し込まれた。反射的にそれらに舌を這わせて、絡め、吸い付く。
冷たかった指先に温度差を感じなくなった頃、下衣を下着ごとずり下ろされて、唾液に塗れた彼の指が前触れも無く後孔に突き立てられた。

「うっ、あ!!・・・んっ、んぅっ、ぁ」

ジワジワと侵入し本数を増やしながら根元まで埋まった指が、中を撫でる。違和感に慣れるその前に不意にそれらを引き抜かれて、その摩擦にも声が漏れる。

「っあぁッ、・・・智、くん・・・?」

「挿れていい?」

ベルトを外しながらの問い掛け。疑問形を成してはいるものの、返答を待たない一方的な通告。
まだ充分には解れていないそこに彼のものが宛がわれ、躊躇わず一気に貫かれた。

「いっ・・・っ!!あああぁっっ・・・!!」

力任せに、強引に奥まで捩じ込まれて、あまりの痛みにまともに呼吸が出来ない。
彼の背中へと回した腕に思わず力が入り、爪が食い込む。それに一度顔を顰めて、

「ごめん」

短く一言だけ告げると、未だ痛みに強張る胎内に構わず彼が動き出した。
性急な、容赦の無い律動に繋がった部分が軋んで内襞が抉られる。力の抜き方が、分からない。
それでも、眉根を寄せて耐えながら浅い呼吸を繰り返すうちに少しずつ慣らされて、再び吐息と矯声が漏れ始めた。

「はぁ、あぁっ・・・さと・・・しく、っあ・・・はぁ・・・あぁっ、」

「・・・翔、ぅんっ・・・ぁ、はっ・・・翔・・・翔くんっ・・・っっ!!」

縋り付くように名前を呼びながら、奪い尽くすように唇を塞ぎ合う。
身動きが取れない程にきつく抱きすくめられて、彼に触れる全ての場所に熱が凝る。
まるで何かに怯えるように俺を抱き、何かから逃れるように激しく腰を打ち付けて、意識とは関係無く収縮する俺の中へと、彼が熱を放った。ドクドクと脈打ち、ジワリと熱いものが伝わる。

肩で息をしながら、しかし彼は達したばかりのそれを抜かないままで。
中途半端に脱がされて纏わりつく衣服を掻き分け、顕わになった肌に掌を滑らせ、唇で幾つもの紅い痕をつけていく。
久しぶりに重ねた肌に伝わる体温と、やはりどこか違和感を感じる荒々しさに、戸惑いながらもいつも以上に煽られて。
まだ達していない下肢が疼き、もどかしく揺れる。

「智くん、もっと・・・」

もっと、直接触れて欲しい。言葉にはせずとも意図するところが伝わったのか、彼がそこに手を添えて緩々と扱く。
すでに頭を擡げていたそれはすぐに硬さを増していき、先端からは蜜が零れ始めていた。
同時に、埋め込まれたままの彼自身も質量を取り戻して、粘着質な音を立てながら再び揺さぶられる。

「ぁ、んんッ・・・さと、っはぁっ・・・っ」

膝裏に腕を入れて押し広げれば、繋がりは一層深くなって。奥を突かれる度揺れる視界に、焼けた肌に滲む汗がキラキラと光って見えた。

「・・・うっ、あ・・・はあっ、あっ、あっ・・・あぁ!!」

「はっ・・・ここ?」

「んっ、ぁ、ああっ、はっ、・・・っく、」

腰を掴まれ、特に敏感な箇所ばかりを執拗に攻められて、確実に限界へと追い詰められていく。伸ばした腕を彼の首に絡めて引き寄せると、額からポタリと落ちた汗粒が、俺の頬を伝った。
その微かな刺激にさえ、肌が粟立つ。

「あっ、はぁっ、・・・さ、さとしッ・・・もう、イッ、」

「っ、はぁ、はぁ・・・いいよ・・・俺も、」

張り詰めたものを一度ギリギリまで引き抜くと、強く深く、一番奥までを一気に貫いて。
彼が齎す焦燥にも似た激しさが、身体中を灼いた。

「っあぁ、はぁっ・・・あっ、あぁ、っん・・・ぁ、あああっっっ・・・!!!!」


抑える事を忘れた嬌声と共に、白濁が飛び散る。それとほぼ同時に、最奥に彼の2度目の熱が迸るのを感じた。







乱れた衣服はそのままに、乱れた呼吸が整うのを待つ間。

「ごめん…翔くん」

目を合わせないまま、所在無さげにそれだけを言うから。

「いいよ…俺もあなたが足りなかったから…」

何があったのかは、もう聞かない事にした。
スピーカーからはまだあの曲が流れていて、歌詞に聞き入る。



「いい曲だね…。俺たちみたいだ・・・」


俺を包む腕の中で、ポツリと呟いた。




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