創 話

□マグワフナミ
1ページ/2ページ



「翔くん、しよ」
「でも智く、っん」

振り向いた途端何かを隠すように瞳を逸らして、強引に押し付けられた唇が言葉を遮った。
口付けはすぐに深く淫靡なものへと変わり、首に抱きついて少しだけ背伸びをする薄い腰に手を添えると、そのまま俺をベッドに押し倒し、反動で跳ねた身体を押さえ付けるようにして剥き出しの情欲を瞳に宿した智くんが真っ直ぐに俺を見下ろす。

「ん、っ」

再び重ねられた柔らかな唇を受け止め、差し込まれた温かな舌に自分のそれを絡めて押し返す。歯の裏側から上顎の粘膜へと舌先を伸ばしてなぞると、吐息と共に零れた智くんの唾液が俺の頬に落ちた。
伝い落ちる雫を舐め取り、塗り付けるように彼の舌が首筋を這う。
智くんの熱が濡れた場所からジワリと染み込み、感染するように拡がっていくのを享受しながら苦笑混じりに聞いた。

「もしかして俺、襲われてる?」

智くんは答える代わりに妖しく微笑う。
頭を抱き込む両腕と、囓り付くように重ねられた唇に逃げ場を失い、呼吸さえ奪われて。
捩じ込まれた舌が口内を乱雑に掻き乱す感覚と、頭蓋に響く歯列のぶつかる音、自由にならない呼吸が脳内の酸素濃度を低下させて、思考を塗り潰していく。

「っ、はぁ・・・」
「・・・ん、」

零れる吐息も溢れる唾液も口移しで分け合い、触れ合う肌で体温を共有して、邪魔になる衣服は次々に取り除かれていった。

「翔くん・・・」

仰向く俺の鎖骨を這う彼の舌がゆっくりと移動し、搏動する心臓の上を通りピアスの無い臍に触れて、更にその下へと向かって行く。
そこに息衝いている俺自身を躊躇わず咥え込むとそのまま軽く吸い上げられ、吐息が溜め息のように漏れて。

「っ、はぁっ・・・」

俺のを咥えたまま蠱惑的に眇められた瞳がこの先を連想させ、その甘美な刺激を想像しただけで鼓動が高鳴り、思わず息を飲んだ。

「ぁあ・・・はっ・・・」

根元から先までを隈無く丁寧に舐め上げられて、否応なしに声帯が震える。
上擦った声が呼吸に混ざり、目を閉じ奥歯を噛んで堪えていると、咎めるような強さで昂りを噛まれて抵抗は呆気無く崩れ去った。

「あぁっ、あっ・・・智、くんっ、はぁ・・・っ」

智くんの器用な指が捏ねるように絡み付き、ザラザラとした舌が纏わり付いて執拗に擽る。
唇で挟んだまま頭を上下に動かし、うっとりと瞳を細めて陶酔したように愛撫に没頭する姿は恐ろしい程綺麗で。
その美しさと快楽の齎す背徳感が劣情を後押しし、全身を粟立たせながら出口を求め中心に集まる。
射精の予感に支配されて、卑猥な音を響かせながら口淫を続ける智くんに限界が近い事を訴えた。

「っ智く・・・も、そろそろ」

屹立する俺自身から顔を上げた彼は、俺の先走りと唾液とで汚れた口元を指で拭うと、その濡れた指を自らの後孔へと向かわせた。

「っ、ん・・・っ・・・」

そこに生じる違物感に眉を寄せ、時折微かな呻きを漏らしながら俺を受け入れる場所を自分で解していく。
智くんが息を詰める度、彼へと伸ばした手でその昂ぶりを緩く握り、揉むように擦って、吐く息を、力を抜く為のものから艶を含んだものへと変えていった。

「う、っん、あぁ・・・はぁ・・・」

やがて呻きが喘ぎへと変わり、濡れた吐息と共に後ろを探る指を抜くと、俺自身を自分の後孔へと宛がい、智くんは手をついて上体を支えながら少しずつ腰を進めて受け入れていく。
その間も彼の表情が歪む度に、手の中にある彼自身に甘やかに刺激を与えて。
抵抗と弛緩を繰り返しながらやがて全てが埋まった時、俺の先端に生まれた甘い痺れが、波となって全身に伝わった。

「動くよ?」
「待って。今日は、俺がする」

瞳を潤ませ、深く息を吐いた智くんへと腕を伸ばすと、彼はそう返して緩々と動き出した。
馴染ませるように深く、時に腰をくねらせて、確かめるようにゆっくりと。

「ん・・・っん、あっ・・・」

何度か繰り返す内に細く咽喉を震わせ、蠢く内襞が俺を圧迫して、身体の隅々にまで快感が電流のように走った。

「っはぁ、智くんっ」
「あ、んっ・・・はぁ、あぁっ」

俺の上に跨がり上気した肌に薄く汗を纏った智くんは、自ら快楽を追って腰を揺らし、生じる快感に酔って淫らな声で喘ぐ。
その姿は息苦しい程俺を急き立てて、気付いた時には彼の腰を両手で掴み、下から思い切り突き上げていた。

「っ・・・!!あっ・・・ぁんっ、しょ・・・くんっ、」

俺が柔壁を抉るように突くと、突かれるままに喘ぎ乱れて、呼応するように収縮する智くんの中が新たな快感を齎した。
交ざり合い融け合う身体が、部屋全体を一層熱く濃密な空間へと変えていく。

「はぁ、翔くん・・・ッ」
「はぁ、智くんっ、締め付け・・・半端ないっ、」
「う、気持ち・・・いぃ・・・あっ、はぁっ・・・」

熱に浮かされた瞳で痛い程に中を締め付ける智くんの、固く芯を持ち勃ち上がっているそれを強く掴んで扱いた。
止めどなく溢れ出る快楽の蜜が摩擦に音を立て、手の中でビクビクと痙攣する。その間も互いの腰は絶えずぶつけ合って。

「ああっ、あっ・・・翔く、ぁん・・・あぁっ・・・」
「智くん・・・いいよ・・・」
「翔くっ、はぁ・・・んん・・・しょ、ぅあっ」
「はぁっ・・・っ、はぁ」
「・・・しょうっ、ん、・・・翔くっ・・・あぁっっ・・・!!」
「っん・・・ぁはっ・・・」

忙しない呼吸と矯声の合間に俺の名を繰り返し、大きく撓って白い飛沫を飛び散らせながら智くんが果てると、引き摺られるように俺も彼の胎内に滾る熱を吐き出した。


脱力した智くんの身体を胸に受け止めると、彼の放った体液が密着した肌にぬるぬると薄く広がって、まだ仄かに残る温もりを伝えた。
余韻に震える彼の身体に両腕を廻し、酸素を求めて激しく上下する背中をそっと撫でて、汗ばむ髪を梳く。
呼吸が落ち着いてきた頃、不意に窺い見えた彼の瞳がどこか翳りを宿しているように見えて、智くん、と呼び掛けようとしたその時、

「・・・っ、ちょっ智くん!?」

繋がったままの場所が明らかな意志を持って動いて、中に穿ったままの俺を挑発ように柔襞が脈動する。

「智くん?」

甘い誘いに乗るように、弛緩していた俺のそこは徐々に芯を取り戻し、再び熱を集めて熟れていった。
「ふふっ、翔くん復活」

不埒な下肢にそぐわない、いつものふわりとした笑顔を向けられてなんとなく疑問を口に出せずに。

「しょうがないな」

ふっと笑って身体を反転させると、今度は上から彼を見下ろした。
濁る体液でベタつく胸も、そこから伸びる引き締まった腕も、しどけなく投げ出された太股も。どこに触れても達したばかりの身体は敏感に反応して、掠れた声を漏らしながら擽ったそうに身を捩る。
その度に繋がっている場所が粘着質な音とあえかな摩擦を生み、穿ったままの俺がまた、彼の中で質量を増したのが分かった。

「ん、っあ・・・」

割り開いた膝の間で胎内に残る残滓を掻き混ぜるように腰を回すと、耳につく濡れた音と共に白濁が滲み出て、その場所を鈍く淫らに光らせる。

「ぁん・・・翔くん、」

伸ばされた智くんの腕に引き寄せられるように身体を重ねて、額に軽く触れるだけの口付けをしてから奥まで突き挿れた切っ先で揺すり上げた。

「あっ、あぁ・・・っ翔く、しょ・・・くん、」
「何?」
「ん、はぁっ・・・っ、あぁっ、もっと・・・」

律動に揺れながら儚さを含んだ瞳で求めてくる智くんに、つい先程窺い見えた表情が重なって、チクリと小さな痛みが走った。
それを掻き消したくて。
そんな顔をして欲しくなくて。
智くんが俺を必要とするなら。
俺が智くんの不安を解消してあげられるのなら。
求められるだけ、否、それ以上に応えたいと、そう思った。
俺の背から離れた手を追って掴むと、ベッドに押し付けて指と指を絡め、強く握り締める。

「あぁっ、あっ・・・はっ、あっ・・・っあ、はぁ・・・」
「智くんっ」
「ん、っあぁ・・・はっ、・・・っ」
「愛してる・・・智くん、愛してる・・・好きだよ」

耳に注ぎ込む言葉だけでなく、深く繋がった場所からも、握った手からも、重ね合う肌からも、全てから俺の想いを受け止めて欲しくて。
呪文のように繰り返す愛の言葉を直接身体に刻み込むように、より強く、より深く腰を送り続けた。

「あなただけだ・・・愛してる・・・愛してる、智っ」
「・・・ぁ・・・、っっ!!・・・」

果てへと向かう為に早めた腰で智くんの柔襞を何度も擦り、打ち付ける。
言葉と共に奥深くを抉った時、背を浮かせ、声にならない嬌声を上げて智くんの熱が迸り、胎内から引き抜いた俺自身も、ビクビクと痙攣しながら彼の上に白濁を放った。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

肌の上で混ざり合った二人の体液を智くんが愛おしそうに指で掬って。俺はそんな彼の隣に寄り添って。汚れた身体のまま抱き合って瞳を閉じた。




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ