創 話

□ハジマルナミ
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「智くん・・・もう、どこにも行かないで」

両手で包み込んだ智くんの顔にキスをする。
頬、額、瞼、鼻、顎、顳、そしてまた唇に戻ると、それはまたすぐに深いものへと変わった。
痺れる程絡め合った舌で互いの口腔を往き来して、唾液を注ぎ合って、吐息を分け合って。
少しも離れたくなくて唇を重ねたままで薄い酸素を吸い合う。
その息遣いに、確かに感じる温もりに、急速に膨らんでいく熱欲が胸をきつく締め付けた。

「、ふ・・・っ・・・ぁんん」

尖らせた舌先を奥まで伸ばして上顎の裏側を擦ると、あの頃と変わらない上擦った声が漏れて、堪らなくなって。
口腔を犯しながら俺が着せてあげたスウェットの隙間に手を差し入れると、触れる肌も変わらず滑らかで俺の掌に吸い付いてくる。
薄い腰から脇腹を伝って辿り着いた胸。
そこに凝る突起はどんな風に色付いているのか、直接見なくとも容易く想像が出来た。
何も、少しも忘れてなどいない。

「ぅあ、はぁ・・・んっ」

指先で突起を摘まむと、もどかしそうに身体を捩る。
首に廻されていた腕に力が込められて引き寄せられるまま身体を密着させると、下肢に智くんの熱の固さを感じた。

「はぁ・・・っ智くん・・・」
「んっ、ぁ・・・はぁ、ん 」

服を着たまま身体を揺すって熱塊同士を擦り合わせる。
身体中が熱く火照って衣服が煩わしくなって、自分が着ているものも智くんが着ているものも、全て剥ぎ取っては床に投げ捨てた。
そう広くは無いソファーの上、何も纏わぬ素肌を重ね合わせたら、智くんの二日酔いの事も、行為が久しぶりである事も、もう、何も考えられなくなった。

「はぁ・・・っ、ぁんん、あぁっ」
「っ・・・智・・・」

全身を使って無我夢中で智くんの身体に触れ、まさぐり、愛撫して。先走りで濡れた指で後ろを慣らしていく。
智くんの自身からはトロトロと蜜が溢れ続け、表情には恍惚の色が浮かび、聞こえてくるのは浅い呼吸と熱に染まりきった艶声。
俺が施す行為に感じてくれていると思うと、それだけで酷く興奮して俺の昂りも更に嵩を増した。

「・・・いい?挿れるよ?」
「あっあっ、ぅはぁっ・・・あぁっ・・・」

返事など待たずに指を引き抜き、猛った自身で組み伏せた身体を貫く。
久しぶりに味わう智くんの中の感触にすぐにも達してしまいそうになるのを、深く息を吐いて落ち着かせてから緩々と腰を動かした。

「はッ・・・あぁ・・・さ、とし・・・くっ・・・」
「んぁ、・・・ぅあっ、あぁっ」

絡みつくような柔襞と縋るように廻された腕に煽られて、追い立てられる。
少しでも深い所で繋がりたくて奥へ奥へと何度も腰を送ると、その度に投げ出された智くんの脚がしどけなく揺れ、高い嬌声が部屋中に響いて、最早自制など出来なかった。
より深く。より強く。壊してしまいそうな程に激しく、獣のように交わって。
それでも。

「っ、可愛いよ・・・智」

「可愛い」は「好き」。身体に染み付いているあの頃の習慣に、鼻の奥がツンとして切なさが込み上げる。

「智くん・・・気付いてあげられなくて、ごめんね」
「・・・ぅあ、はぁ・・・ぁあ、んっ」
「もう、大丈夫・・・」

律動に揺さぶられ、焦点の合わない瞳で快楽に喘ぎ続けている智くんに、俺の声が何処まで届いているのかは分からない。
それでも俺は、智くんの耳元に唇を寄せて語り掛けた。

「大丈夫だから・・・また、ここから・・・」
「あっ、あん・・・っ・・・あぁっ」
「一緒に、始めよう・・・」

俺の言葉に応えるように智くんの胎内が蠢いて、繋がっている場所がきつく締まる。
華奢な鎖骨に押し当てた唇で赤い印を刻むと、その身体を両腕できつく抱き竦めて果てを目指した。

「智く、ぁ・・・っ」
「ぁんっあぁっ、あっ・・・はぁ、ん」
「うっ・・・っく、はぁっ」
「あ、あぁっ・・・しょう、くっあ、あああっっ」

加速度を上げていく劣情が、繋がった身体を絶頂へと導いて。
智くんの奥深くに熱を放った直後、密着する肌の間にも生温かくぬるついた感触が広がった。
穿ったものを抜く事もせず、抱き合ったままで乱れた呼吸を整える。
その間、背に廻された智くんの腕も解かれる事は無かった。







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