創 話
□Something feel like Heaven
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楽屋には共演者やスタッフから贈られた大量の花が置かれていた。
その中でも一際目立つ、大輪の花に独特の芳香を持つユリ科の植物。
一輪でも香りの強いそれがいくつも咲き誇って、その存在をドアの外側にまで主張している。
「・・・甘ったるい」
仄かに香るからこそ芳しい香りも、度を過ぎれば不快になる。
ドアを開けた途端、心底不快そうな顔で松本が言った。
「そんなに嫌なら外出てれば良かっただろ」
「翔さんももう来るって聞いたから」
「何、それで態々匂い我慢してまで俺の事待ってたの?」
態と揶揄うように言った言葉に、ソファーにくったりと身を預けたまま視線だけを寄越した松本の、その気怠そうな仕草が何故だか妙に艶かしくて、僅かに苦しくなった胸に、自然と呼吸が浅くなった。
それは室内を満たす濃厚な空気の所為か、それとも不意に生まれてしまった不埒な衝動の所為か。
そんな事を頭の片隅で考えながらドアに鍵を掛けて松本の前に歩み寄り、怪訝そうに見上げる顔を両手で押さえて、強引に唇を重ねた。
「んっ、」
押し返そうとする腕を無視して、より強く、痛いくらいに唇を押し付ける。
角度を変えながら何度も啄み、何かを言い掛けた下唇を軽く齧って、内側の濡れた粘膜を舐めて。
引き寄せた舌を緩く咀嚼してから歯の裏側の更に奥を、尖らせ、捻じ込んだ舌で何度もなぞった。
「・・・ぁん」
松本が手にしていた荷物がバサリと床に落ちて、鼻に掛かる声が微かに漏れる。
そっと唇を離すと、薄く開かれた瞳は甘く色付き、潤んでいた。
「ぅんっ・・・っ」
右手で耳の裏を撫でてやりながら再開した口付けはもう抵抗される事無く、改めて差し入れた舌にも従順に応じて。
口端から溢れる唾液を啜り、濡れた吐息を刻み合いながら、衣服の隙間に差し込んだ手で素肌を辿る。
探し当てた胸の突起を爪先で弾くと、松本の身体が僅かに跳ねた。
「ぁんッ、はぁ・・・ァ・・・」
「・・・っん」
松本の手が縋るように俺の腕を掴み、息苦しそうに悶え始めた身体をソファーに押し倒す。
髪からも身体からも酷く甘い香りが漂って、嗅覚も、肺も、脳も、全てが犯されていくようだった。
「続き、する?」
「ここで?」
鍵を掛けてあるとは言え、何時誰が来るか分からない。
普段ならこんな場所で行為に及ぶなど考えられない筈なのに、強過ぎる香りが麻薬のように判断力を狂わせていく。
「珍しいね、どうしたの?」
常ならざる俺の行動に、松本がどこか愉し気に言った。
「んー、・・・匂いに酔った事にでもしといて」
クス、と小さく笑った松本の手が俺の頬へと伸び、包むように触れる。
「嫌?」
「いいよ、俺もしたい」
蠱惑的に笑う松本の唇が妖しく弧を描いて、もう一方の手が熱に膨れた中心を布越しに撫でた。
上体を引き寄せられて伏せた耳元に、松本がゆっくりと囁く。
「匂いなんて気にならなくなるぐらい、して」
熱く濡れた声が脳に直接響き、肌を掠めた吐息が僅かに残っていた理性を溶かして、荒い息遣いで首筋に顔を埋め、艶めく肢体に触れていく。
漏れる吐息も、押し殺した喘ぎも、分け合う熱も。
何もかもが甘く、狂おしい程濃厚で。
噎せ返るような香りに包まれて、甘い甘い誘惑に堕ちていった。