創 話

□10年後の君に
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「翔くん・・・いいよ」

何を、なんて言わなくても意味は伝わっていた。
理解しているからこそあの時の翔さんは「何が?」なんて言いながら目を泳がせていて、俺は床に手をついて距離を詰めると初めて自分から彼の唇に口付けた。
触れ合わせただけで離した唇が妙に疼いて、胸が騒いで、目を合わせる事が出来なかった。

「明日、誕生日だし」

翔さんの二十歳の誕生日前日。
その日は両親も姉も留守にしていて、最初からそのつもりで家に招いていた。
翔さんとはまだキスしかした事が無い。
それは、俺が男同士でそういう行為をする事に多少なりとも不安を感じていたからで、彼がそんな俺を気遣ってくれていたから。
不安が無くなった訳ではないけれど、それ以上にキスだけでは満たされない欲求が俺の中でどんどん大きくなっていて。
だから、「誕生日だから」なんて女の子でもあるまいし本当はどうでも良くて、あの時の俺はただ切っ掛けが欲しかっただけに過ぎない。

「翔くんの・・・」

外は雪が降り積もっていて、いつもより静かな部屋に消え入りそうな程小さくなってしまった自分の声が、それでも良く聞こえた。

「翔くんのしたいように・・・してくれていい」

俯き、床を見詰めたままの俺に翔さんが近付く気配がして、息遣いをすぐ傍で感じた。
顔を上げると吐息がかかる程の距離で目が合って、胸が軋んで痛かったのを今でも良く覚えている。

「本当にいいの?」
「翔くんと、したい」

囁くように聞かれて目を逸らさずに頷く。
僅かに間を置いてから唇を塞がれて、そのまま押し倒されていた。
さっきまでカサついていた筈の彼の唇は熱く濡れていて、何度も何度も角度を変えては啄むように口付けられるうちに苦しくなって。
息を継ごうと開いた隙間に差し込まれた舌が、口内を浅く深く掻き乱していった。

「ん、んんっ」

舌先で顎の内側を擦られて、上擦った声が鼻から漏れる。
深く激しくなっていく口付けは、痺れる程荒々しくて、蕩ける程甘くて、切ない程愛しくて。
それまで、触れるだけのキスは何度もしてきた。
女の子とならその先だってある。
だけど翔さんとそんなキスをするのは初めてで、貪られるようなそれに否応無しに興奮させられた。

「んぁ・・・ぅんっ、」
「っ、はぁっ・・・潤っ」

低く掠れた、剥き出しの欲情が顕になった声。
初めてそんな声で名前を呼ばれて、身体の奥底に灯った熱が勢いを増して指の先まで広がっていく。
混ざり合う唾液を飲み下し必死に舌を絡めて、縋るように彼のシャツを掴むと熱い掌が服の隙間から素肌に触れた。
器用にベルトを外した右手が、下着の中へ。

「待って、」
「何?」

翔さんの胸を軽く叩く。
動きを止めた翔さんが疑問を口にして、俺が答えた。

「ベッド・・・」
「あぁ、ごめん」

ベッドに移動して着ていた物を脱がせ合っていく間も、口付けを交わし、遠慮がちに互いの素肌に触れて。
気恥ずかしさと、ほんの少しの不安と、それらを上回る抗いようのない熱欲に、火照った身体が小さく震えた。

「怖い?」
「・・・ううん」

首を横に振り翔さんの首に腕を廻して引き寄せると、密着した身体は真冬だと言うのに何処も彼処も熱くて、その体温が心地好かった。
ゆっくりと時間をかけ全身を使って施される愛撫に、腰の奥で蟠っていた熱が、確実に引き摺り出されていく。

「んっ・・・ぁ・・・」

頭を擡げた中心を撫でられ、指の腹で裏筋から先端を捏ねるようにされて、溢れた先走りが濡れた音を立てる。

「あ、はぁっ・・・っ」

不意に生温い感触に包まれて目を向けると、翔さんが俺の昂ぶりを根本まで咥え込んでいて、途端に沸き起こった羞恥に彼の頭を引き剥がそうとしても、絶妙な力で甘噛みされて力が入らない。

「っ、やめ・・・はぁ、ぁん」

口淫を続けながら後ろに回された指先が、堅く閉ざしている後孔を探る。
時折唾液や先走りを纏わせては何度か入り口をなぞって、やがて騒つき始めたそこに骨ばった指先が侵入した。

「ぅうん、ゃ、だ・・・っ」

初めて味わう異物感に思わず顔を顰めると、指で内側を撫でながら咥えられたままの中心を舐め上げ、口全体で柔らかく揉みしだかれる。
気持ちが悪いのか気持ちが良いのか、分からなくなる位に両方を同時に弄られ、嬲られて。
不快感が快感へと徐々に姿を変えて身体中を支配していくと、強過ぎる刺激に頭がおかしくなりそうだった。

「あっ、あぁん・・・っうぁっ、」
「気持ちいい?」

そう聞かれても朦朧とする頭では答える事なんて出来ずに、だらしなく喘ぎながら小さく頷いた。

「もう、いい?限界」

いつの間にか増やされていた指を全て抜かれて、翔さんが俺の手を取る。
導かれて触れた彼の中心は張り詰めていて、他のどの部分よりも熱い。

「・・・うん、いいよ」

受け入れる為に恐る恐る開いた両脚の間に翔さんが身体を割り込ませて、宛てがわれたそれに思わず目を閉じた。
後孔に感じる熱塊が少しずつ胎内に埋め込まれて、秘められた場所が暴かれていく。

「ん、っう・・・く、」
「っ・・・力、抜いて」

想像以上の苦しさに、息を吐いても上手く力が抜けなかった。
彼の腕を掴む手と、立てた膝が小刻みに震えている。
それでも、俺を案じる翔さんに続けて欲しいとせがむと、翔さんは少し逡巡してから俺に覆い被さるように上体を伏せ、肩を強く抱いて、

「ちょっとだけ我慢して」

そう言われた直後だった。
灼けるような熱塊が身体を貫いた。
引き裂くような痛みが頭の先まで走って、掴んだ腕に俺の爪が食い込む。
彼の顔が一瞬歪んだが、それを気遣う余裕など無かった。
捻じ込まれた楔に胎内を無理矢理こじ開けられて、全身が強張り、結合部が引き攣る。
指とは比べ物にならない質量と圧迫感に、声を上げる事も出来なかった。
それでも何とか少しずつ息を吸って、吐いて。
鈍く重い痛みはまだ続いている。
でも、決してそれだけでは無くて。

「ごめん、大丈夫か?」
「大丈夫・・・挿ったの、全部?」

頷いた翔さんは、暫く動かないままで俺を待ってくれていて、俺の髪を梳いてくれる手の優しさと、身体の内側で感じる彼の存在が心地良かった。

「・・・ね、動いてみて」

俺が言うと、翔さんが腰を小さく揺らした。
引き摺られるような感覚に繋がった場所が少し痛んで、同時に痺れにも似た甘い快感が広がって。
もっと強くそれを感じたくて腰を浮かせると、柔襞を抉る先端に無意識に声が上がり、身体が跳ねた。

「ああぁっ」
「今のとこ?」

翔さんがそこばかりを狙って突いて、俺はただ衝撃に揺れながら忙しない呼吸と意味の無い言葉を漏らす。

「あ、あ、ぁんんっ・・・はぁっ、ああっしょ、く・・・ぁん、ゃ、あっ・・・」
「はぁ、っ・・・ぁ、はぁ・・・」

繰り返される律動は段々と大きくなり、引き抜き、突き上げられる度に交わりは深くなっていった。
もっともっとと強請るように、咥え込んだ翔さん自身に内襞が蠢いて絡み付く。
その度に湿りきった彼の吐息が肌に当たって、内からも外からも、気が狂いそうな程の快感に染められていった。

「んっ、はぁっ・・・潤っ・・・」
「ぁん・・・あぁっ・・・好き、だよ・・・しょう、くっ・・・好き・・・」
「ぁ、んっ・・・ぅん、」
「あっ、はぁ・・・っああぁっっ」
「・・・っ、はぁっ、っあぁっ・・・」

その時。翔さんの腰が一際強く打ち付けられて、頭が真っ白になって、一際高い嬌声と共に白濁が散って。
一拍遅れて身体の奥の深い場所に翔さんも欲を放って、体液と共に言い知れない充足感がジワリと広がった。
それが俺と翔さんの、初めて身体を繋いだ日だった。




あれから10年。
俺は今、翔さんの下腹に顔を伏せて立ち上がった欲の塊を口一杯に含んでいる。

「っはぁ・・・ぁ・・・」
「気持ちいい?」
「はぁ・・・っ、く・・・ぁ、」

熟れた先端からはトロトロと蜜が溢れ続けていて、その顔にも最早余裕は無い。
俺の愛撫で感じている翔さんを上目で見遣ってから、挟んだ唇で扱き、口に収まりきらない根元を指先で擦って、舌全体を使って追い上げていく。

「っ、もう・・・イく、」
「いいよ」
「離、せっ」

伸ばされた腕には力などまるで入っていなくて、俺はそれを簡単に振り切ると咽喉奥まで翔さんを咥え込み、搾り出すように強く吸い上げた。

「やめ、っは・・・あっ、ああぁっ・・・っ・・・」

咽喉に直接流れ込んで来る生温い体液をそのまま嚥下し、白濁に塗れた口元を手の甲で拭う。

「上手くなったでしょ?」

得意気に言う俺に翔さんは不貞腐れたような呆れたような顔をして、小さく苦笑して。

「昔のお前は俺の下でただ喘いでるだけだったのにな」

あの初々しかった松本くんは何処へ行ってしまったのか、などと業とらしく嘆いている。

「俺をこんな風にしたのは翔さんでしょ?」

俺も軽口で応じながら自分で下着を下ろすと、彼の身体に跨った。

「こういうのも嫌いじゃない癖に」

交わる為にその身体に触れて、重ねた素肌で体温を分け合っていく。
ふと視界に入ったベッドサイドの時計は、もう0時を過ぎていた。

「あ、翔さん・・・誕生日、」

おめでとう、と言いかけた言葉は、重ねられた唇に飲み込まれていった。
あの時と同じ、痺れる程荒々しくて蕩ける程甘い、愛しくて堪らないキスだった。







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