創 話

□あなどりがたきボクら
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ペットボトルのキャップを開けて、用意しておいた薬を二錠まとめて飲み込んだ。空になったばかりの錠剤のシートを見て翔ちゃんが言う。

「大変だね、花粉症」
「毎年の事だからね。今朝起きた時怪しかったから早目に飲んどこうと思って」
「その薬よく効くやつでしょ。眠くなりにくくて」
「そうそうそう。もうずっとお世話になってんの」

これだけ飲んでんだからそろそろCMの話が来てもいいと思うんだけどなー、なんて冗談を言って笑う。いつもの、よくある楽屋の風景。
ニノがゲームをして、リーダーは釣り雑誌、翔ちゃんと松潤も新聞読んだり資料に目を通したりスマホ弄ったり。程良い五人の距離感。
だけど、いつからだろう。いつからか少しだけ、何かが変わった気がする。
居心地が悪いとか何かが足りないとか気持ちが悪いとかそう言う事ではなくて、なんて言うか・・・

「松潤悪い、それ取って」

目の前で翔ちゃんが松潤に頼み事をして、松潤がそれに応える。誰にでも何処にでもあるような、自然な遣り取り。

「あ、はい」
「サンキュ」

でもその自然な遣り取りの後。ほんの一瞬二人が交わした視線は、その場の空気を僅かに、だけど確かに変えた。
今の、ニノとリーダーは気付いているんだろうか。
いや、今だけじゃない。思えばこんな事がここ最近何度かあった気がする。
翔ちゃんと松潤を挟んだ俺の向かい、ニノは変わらずゲームをしていて、少し離れた場所にいるリーダーも相変わらず釣り雑誌を眺めていた。これでは聞くに聞けない。第一、今俺の中にあるモヤモヤした疑問をどう言葉にしたら良いのかも分からない。
もう一度飲みかけのペットボトルに手を伸ばした時、テーブルの上に置いたままになっていた空になった錠剤のシートが目に入った。さっき翔ちゃんはそれを見て花粉症の薬だと言った。効果や効用が書いてある外箱は鞄の中。花粉症じゃないのに、翔ちゃんは知っていた?そう言えばこの薬は、

「どうしたの、ボーッとして」

松潤が俺を見てる。そう、この薬は松潤から教えて貰った薬。松潤も愛用しているらしい薬。
松潤の薬、さっきの視線の意味、忘れ物と言って翔ちゃんが自分の鞄から出した松潤の眼鏡、一緒に観たという映画の話、思い起こせば他にも色々。
何か小さな引っ掛かりを感じる時、そこにはいつも翔ちゃんと松潤がいた。

「え?・・・あっ」

バラバラだったピースが一つ一つ繋がっていく。
そして浮かび上がる一つの可能性。

「え、もしかして・・・えぇっ!?」

でもそれを今この場で聞いてしまっていいのだろうか。ちょっと待て、落ち着け、俺。
何が言いたいの、と苦笑する松潤と翔ちゃんの向こうでニノが俺を軽く睨んで。

「あー・・・」

なんだか妙に納得した。
最近感じていた違和感の正体はこれだったのか。いや、違和感ではない。しっくりくる。実にしっくりくるのだ。

「なるほどなるほど」

だから何なんだよ、と呆れる松潤とそれを見て笑う翔ちゃん。ニノはまたゲーム。俺と目が合ったリーダーは立てた人差し指を唇に当ててシーとジェスチャーすると、ふにゃりと笑った。
だから俺ももう、野暮な事は聞かないことにした。







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