小説書きに100の質問

□小説書きに100の質問 #31〜70
1ページ/1ページ

+小説書きに100の質問+ <2>(#31〜70)


 

<2>

31
人物の名前はどのように決めますか。
「世界観にフィットする名前――ヤツならそう言いそうだな」「それと、現実にいないような名前を考えているわよ。読み手が被害者や犯人と同じ名前だったら気まずいでしょ」
 届いたビールのグラスに手を伸ばしながら、女探偵は探るようにオレを見た。
「……ねえ、彼女にだまされたってどういうこと?」
「あの女は詐欺師だ。無から有を作ろうとしたのだから」
「確かに文章書きって、ただの文字の羅列から人々の意識に風景や人物を浮かび上がらせるわね。でもそれ言ったら、世の全ての小説家を殺さなきゃならなくなるわよ」
「オレはなあ、だますのは好きだがだまされるのは大嫌いなんだよ」

32
資料をどのくらい集めてから書き出しますか。
「可能な限り集めまくって、脳をその物語の世界に染めて書いているわね。火星でも古代中国でも、その光と風を書き手が感じていないと読み手にも伝えられない、っていうのが信条みたいよ」

33
小説を書くときにあなたが気をつけていることは。
「ターゲット的には今言ったこと、なんじゃないの?」

34
小説を書く能力は、どのように磨きますか。
「これは一般論として、他の人の作品を研究することじゃない?」
「そうだな。アンタに聞いても仕方ないな」

35
ネタが無いときはどうしますか。
「これは私が答えてもいいわね。ひたすら天使(=インスピレーション)待ち」
「我々だと、さしずめ依頼人を待つ、というところか」
「あなたにも今回依頼人がいるのかしら」
「オレはいつでも、オレの意思で動いている」
 隣のカジノでわっと歓声が上がった。
「何だ?」「JACKPOT(大当たり)でも出たのかしら」

36
あなたが小説を書く上で影響を受けたものはありますか。
「久美沙織と宮部みゆきの描写力にはショックを受けたみたいよ」

37
他の人の書いた小説を読むとき、ついつい注目してしまうのはどういうところですか。
「ゆえに、どのくらいのリアリティを感じられるか、世界観の再現ぶりが重要なポイントになってるはずよ」

38
これから書きたいテーマは。
「彼女に進歩はないから、今後もずっとミステリとアクションなんじゃないの?」

39
感想はどのように得ていますか。
「ネットを介して身内から、が主みたいよ。サビシイものね」

40
批評されても良いですか。
「あなたはどう?」
「質問しているのはこっちだぞ。まあ、『もっとこうした方がいい』という意見なら聞いてもいい」
「でっかい態度ね」
 小馬鹿にしたように女探偵が鼻で笑うので、オレは少し自分のことを話してやることにした。
「1年前――ちょうど今みたいにポカポカ日が照ってた日、ブルーノが死んだのを覚えてるか」
「あの脅迫者ブルーノ?首の骨を折られてたっていうのに、いまだに犯人がわからないってヤツ」
 自分の依頼人がどんなに危険な男なのか気付いたのだろう、エージェントは無言で笑うオレを見た。
「もしかしてあなたが?」
 オレは黙ってニヤニヤ笑っておいた。

41
あなたの未来予想図、22世紀の世界はどうなっていると思いますか?
「ターゲットはきっとそんな未来は考えたこともないわね。私もだけど」「意見が合うな」

42
ますます発達する科学。人間のクローンについてあなたの考えは。
「そんなこと直接彼女に聞きなさいよ」「違う。これは食事の合間の話題だ」「何だ、私に聞いてるの。クローンと言っても遺伝子が同じだけで、経験や性格は同じではないから、医学以外で価値はないでしょう。成体を作っても、人口が増えてうるさいだけじゃない?」「地球としても、これ以上の人口は引き受けられないしな」「臓器レベルにとどめてほしいものよね」

43
超能力やUFOを信じますか?
「これも私?幸い出会ったことはないわ。ターゲットもそうでしょうよ」

44
世界の終末はどのように訪れると思いますか。
「地球外生物の侵略によって」「それアンタの意見か?出会ったことないって言ってたくせに」

45
世界平和は実現しますか。
「する訳ないわね」「ないな」「したら私商売替えしないといけないもの」「オレもだ。この腕を鈍らせるつもりはない」

46
最近の凶悪犯罪についてどう思いますか。
「これはあなたが答えるべきね。暗殺自体が凶悪事件のひとつだもの」「ノーコメントだ」

47
政治家に物申す!
「興味ないわ」「そうか」「ターゲット自身は、投票だけは必ず行ってるみたいだけどね」

48
宗教についてどう思いますか
「彼女はフツーのジャパニーズよ」「そのココロは?」「無頓着ってこと」

49
一日は二十四時間ですが、ほんとは何時間くらい欲しいですか?
「ターゲットはこのごろ夜更かしだから、睡眠時間があと2〜3時間は欲しそうね。あなたはどうなの?」「あればあるほどいいな。時間があれば、その分できることも増える」「欲深ね。神がお許しにならないわよ」「アンタの意見は聞いてない」
 オレはローストにかぶりついた。

50
現代に生まれてきて満足ですか。現代以外ならいつ頃生まれたかった?(過去・未来どちらでも)
「マンガにアニメ、ゲームにラノベ。ターゲット的には今がいちばんいい時代じゃない?」

51
「ファンタジー」とは?
「彼女にとっては仕事場。もしくはもうひとつの生きる世界ってとこね」

52
何処かに引越しをするとしたら何処へ引っ越しますか。
「引っ越しは考えてないわね彼女」「今引っ越されたらオレの苦労がパァだ」

53
旅は好きですか。何処へ行きたいですか。
「旅行は好きなはずよ。何年か前までは戦国史跡めぐりに行きまくってたし。行きたいところも滋賀か、長野あたりじゃない?」

54
登場人物の死についてあなたの所見を。
「オフィシャルなら仕方ないけど、彼女自身はあまり好まないでしょうね。基本、『救いたい』っていうのが彼女の仕事の動機だから」

55
メールや掲示板の書き込みなどで「顔文字」や「(笑)(爆)(死)」の類は使いますか?
「ねえ、ワイン頼んでいい?」「好きにしろ」遠回しに了承の意を示すと、女探偵はうきうきとウェイターを呼んだ。
「アンタ、ヤツのメールはチェックしたのか?」「もちろん。PCでもケータイでも、友人同士なら顔文字や(泣)(笑)くらいはよく使ってるわよ」

56
昨今の日本語の乱れについてどう思いますか。
「日本語って乱れてるのか?」「さあ。彼女も『わかる人だけわかればいい』ってタイプだから、乱れている人間は眼中にないと思うわ」

57
社会に不満を感じることはありますか?どういう時ですか?
「これ、全くない人っているの?」「いるとすれば、よっぽど飼いならされた豚じゃねえのか。権力者に都合のいい存在だぜ」

58
小さい頃、将来何になろうと思っていましたか。
「これは彼女覚えていたわ。小学4年生の時、翻訳家。自分には物語を紡ぐ力がないと思っていたようよ。お子ちゃまだったのね、要するに。外国語をマスターする方が、彼女にとってはよほど難しいのにね」

59
あなたの人生設計を教えてください。
 女探偵は肩をすくめた。「この国だけじゃない、今は世界中が一寸先は闇でしょ。誰が、描いた通りの将来を生きられるというの?そんなの聞くだけムダよ」

60
外はどんな天気ですか。風景も含めて少し描写してください。
「お待たせしました。地元のワイナリーで作りました1997年産のロゼ、『STING』でございます」
 ウェイターが口上を述べ、グラスに注いでいる間、オレは天井まで届く巨大な一枚ガラスの窓越しに表を見た。
 朝はいくらか曇っていたが、今は抜けるような青空だ。周囲の砂漠から吹く砂まじりの乾燥した風も、レストランの中までは届かない。
 カジノにチャレンジしようとする観光客を乗せた大型バスでいつも渋滞続きの幹線道路を挟んで、ここの真向かいにある巨大ホテルの池から天高く噴水が上がり、きらきらと陽光を反射して落ちる。イライラしているドライバー連中の、少しは気晴らしになるだろう。
「何ボーッとしてるの?」
 ワイングラスを掲げて、エージェントが首をかしげている。
「……ああ」
「お互いの仕事の成功を祈って」
 促されてグラスを手に取り、チンと合わせる。
「そのためにはアンタの報告が欠かせないな。続きを聞こうか」

61
読書感想文は得意でしたか。
「ぜーんぜんダメだったみたいよ。彼女が得意なのは創作だしね」

62
国語は好きですか?好きだった学科を教えてください。
「ターゲットの高校時代の成績を調べたわ。国語、特に漢文と化学が良かったわね」

63
学校は好きですか。
「今となってはキョーミないわよ彼女は」

64
運動は得意ですか。
「見るからに運動音痴だなあれは」「だから彼女を殺るのはカンタンよ」

65
鉛筆の持ち方、正しく持ってますか?
「持ててないのは確認ズミよ」

66
実生活で「あぁ自分は小説書きだな……」と実感することはありますか?どういう時で
すか。
「ボーッとしてる時じゃない?つい今やってるジャンルのことを考えて、他次元に魂飛ばしてるみたいよ」「そこが狙い時だな」

67
新聞はどこまでちゃんと読んでますか。
「食事しながら、食べ終わりに読めたところまで。この時も周囲ノーマークよ」「フン、隙だらけという訳か」
 女探偵がオレの背後を通るウェイターを目で追う。さんさんと日の入る窓際のテーブルに座る、黒髪の若い男ときらきらした瞳の少女に、高そうなワインを運んで引き下がる。
「ありゃイタリア系だな」「カジノでひと山当てたのかしら。うらやましい限りね」
 オレとしては彼らの隣のテーブルに座る、あだっぽい女ふたりの深く下がったネックラインの方が気になった。

68
購読している雑誌は。
「ないわね。雑誌は立ち読み。ワールドサッカーダイジェスト、週刊ファミ通、旅の手帖あたりね」

69
本は本屋で買いますか?古本屋?図書館派?
「3つとも行くから、その時々に応じてみたいよ」「すると的を絞って待ち伏せはダメだな」

70
詩・短歌・絵など、小説以外で創作をしていますか。
「ないわね。本棚の過去の作品も、文章ばーっかりだったわよ」



 #71〜へ続く。

小説書きに100の質問 #71〜100

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ