小説書きに100の質問

□小説書きに100の質問 #71〜100
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+ 小説書きに100の質問 + <3>(#71〜100)



 <3>


71
恋人はいますか。
「あんなつまんない生活してるクセに、どうやったら恋人ができるっていうのよ」
「ちなみにアンタはどうなんだ?」女探偵は鼻で笑ってワインを含む。「この世には恋人と過ごすよりも楽しいことがたくさんあるのよ」

72
何をしているときが一番楽しいですか。
「当ててやろうか。ウラの活動をしている時、だな」「まあ彼女ならそうね」

73
あなたの人生の支えはなんですか。
「自分の文章能力、でしょうね」「あざむく力か」「でもあなたも私も同じじゃない?自分の力を信じて生きてる」
「お客さま」テーブル担当のウェイターが、エージェントに声をかける。
「本日の料理はいかがでしょうか」
「とてもおいしいわ。評判を裏切らない味ね」
「ありがとうございます。ところでデザートはどうなさいますか?」
 ウェイターがつつましく微笑すると、きれいな歯がこぼれる。これがマンガなら、キラーンと光っているところだろう。
「そうね、このお店の名物をいただこうかしら」
「バニラビーンズの効いたカスタードタルトでございますね」
「あなたはどうする?」
 オレは子羊をたいらげた皿をウェイターへ押しやった。
「ウェイターは歯が命……か」
「は?」
 微笑は消えないものの、さすがに目が戸惑っている。
「いや。コーヒーだけでいい」
「かしこまりました」

74
懸賞小説に応募したことありますか?その結果は?
「調べたけど、ターゲットが自分の裏稼業に他人の評価を受けたのは1ヶ所だけ。『コミック・ボックスジュニア』って同人誌の通販カタログに何度か作品を送って、A、B、CのうちのBを取ったことがあるわ」

75
日記は書いていますか?
「ケータイHPに時々書いてるだけね」

76
今までで一番衝撃的だったことは。
「大学受験に失敗したことと同人活動に出会ったことは、間違いなく彼女の人生を変えているわね」

77
睡眠時間は何時間くらいですか?
「6時間を切った翌日は死んでたわ彼女」
「どうやって調べたんだ?ヤツの部屋の窓を一晩中見張ってたのか?」
 彼女は直接答えず肩をすくめた。
「こんなの、先月の依頼に比べたら朝飯前よ」
「へえ、どんな調査だったんだ?」
「それは守秘義務ってやつよ。お互いさまでしょ」

78
夜、眠りにつく前に布団の中で何を考えていますか。
「ネタのことじゃない?枕元にメモ帳とエンピツを置いて寝ているから」

79
長時間電車に乗る時、車内で何をしていますか。
「ボケッと外を見ている、ってとこか?」「そうね、ネタを考えつつ風景を目に焼き付けてるはずよ。写真撮るより頭に叩き込む派だから。ちなみにターゲットの今までの最長乗車時間は7時間よ」

80
ネタになりそうな実体験を教えてください。
「聞いたって喋んないと思うわ。片っ端から使用ズミでしょうし」「オレたちなら毎日がネタの宝庫だな」水を向けてみると、女探偵はフフッと笑う。
「そうね。私は探偵だし、あなたは殺し屋だわ」

81
どうして小説を書くのですか。
「あれは他者とのコミュニケーション手段ね。書くことをしないなら、ターゲットはきっと他人に興味を持つことはないわ。生き続ける限り、今後も書き続けるはずよ」「息をするのと同Lvってか?」

82
小説を書いていて嬉しい・楽しいときはどんな時ですか。
「思い通りに書き上がった時、でしょうね。彼女なりの起承転結があって字コンテまで書くんだから、インスピレーション通りに、誤字脱字もなく書き上がった時に満足するみたいよ」

83
小説を書くうえで苦労することはなんですか。
「見えないものを、いかに読者に見せるかってことじゃない?で、あなたには見えたのね」「目にしているのはただの文字だ。それなのに身体の浮遊を感じた。行ったことのない街の空気を吸った」「読み手にそう感じさせることができたってことは彼女の勝ちね。あなたには許せないんでしょうけど」「詐欺やペテンに通じるだろ!」「小説家ってのはそういうものなんでしょうよ。ストーリーや、描写で人を踊らせる」

84
小説を書く時の状況は?(場所・時間・BGM等)
 ハーフボトルで頼んだロゼがまだ残っている。飲むか?と仕草で尋ねると、エージェントは手ぶりで断った。
「ターゲットはインドア派だから、家で机に向かって音楽を聴きながら、ってところね」


85
周りの友人や家族などはあなたが小説書きであることを知っていますか。
「彼女の副業仲間はもちろん知っているわ。家族も何となく知ってるでしょう、ヒマさえあれば書いているから」

86
あなたの周りに小説書きはいますか?何人くらい?
「探ってみたけど、彼女の知り合いは絵描きが多かったわ。絵も字も書ける人が1人いたわね」
「……お待たせしました。当店のパティシエ自慢の一品、カスタードタルトでございます」「ありがとう」
 気取って置かれた細い二等辺三角形の焼き菓子に、女探偵はいそいそとフォークを入れた。
 オレはコーヒーをブラックのまま口に運ぶ。

87
スランプに陥ったことはありますか?どう乗り切りましたか?
「調査してる時ターゲットは結構行き詰まってて、現実逃避に他ジャンルに浮気してたわよ。徹底して逃げて、それから原作に戻って、その気になるのを待つみたいね」

88
長時間パソコンと向き合っていると目が疲れませんか?対策はしていますか?
「あー、私もドライアイきついのよねー」
その表情はタルトの美味しさにたるんでいる。
「アンタのことは聞いてない」「はいはい。ターゲットは目薬をいつも持ち歩いているわ。あとは時々、目を温める使い捨てのアイマスクをしているわね」

89
最近難解な漢字を使用する作家が多いようですが、あなたはどうですか?
「彼女、使わない派ね。フリガナ打たないと読めないし、打つと行間がそこだけ広がってみっともないでしょ。かと言って全部行間広くするとページ数食うし」

90
こういう小説は許せない!
「ターゲットは基本的にイヤなものは見ない主義だけど、三國志のif戦記もので、蜀が主役のヤツだけは、昔1〜2ページめくっただけで拳握って『ブッ殺す!』って誓ったことがあるそうよ。ジョン・ウー監督が大改編した三國志のあれも、イライラきてるみたいね」「ははん、するとアンチ蜀ってか」「それも結構筋金入りの、ね。日本人って判官びいきが多いらしいから」

91
自分の小説に満足していますか。
「あのねえ。ターゲットも一応、広い意味でのクリエイターの端くれだし、作品を公開したりお金をもらったりしてる以上、満足してない作品は人前に出してないと思うわよ。もっと上手くなりたいと、あがいてはいるけれど」

92
他の人のオンライン小説、どれくらい読みますか?
「気に入ったジャンルならホント、検索かけてゴッソリと睡眠削って読んでるわよ。そして負けない――ううん、勝つ話を書きたいと、嫉妬に狂うわけ。だから翌朝はボケッとしていることが多いわね」タルトを平らげ、名残惜しそうにフォークを置く。

93
同人誌に参加したことはありますか。
「ヤツの現在の副業はコレだろう」「地元のイベントに年2回、欠かさず参加しているわ」

94
将来的にプロ作家になりたいですか。
「あれはその気なしね」「ほう」

95
それはどうしてですか。
「オリキャラが書けないから。彼女の物語は二次創作がせいぜいよ」「しかし、その暇つぶしにもならないような物語でも、1ヶ所くらいは魔法がかかっているから、野放しにはできないんだ」

96
あなたの自作小説を一つだけ薦めてください。
「うーん」女探偵は自分のコーヒーに手を伸ばしたが、口にしようとはしなかった。「彼女の渾身の小説はいくつかあるけれど、ロックマンエグゼstreamの『The day of Destruction』はケータイサイトの日記ページ、2006年7月31日から今でも読めるわよ。日記ページには半分オリジナルの江戸川乱歩話も、2007年10月から上がっていたわ」

97
構想中のネタをこっそり披露してください(言える範囲で)。
「今は19世紀のロンドンにゾッコンだから、スリルとアクションとサスペンスな話を考えているみたい。萌えと謎を両立させたいのね、きっと」

98
いつまで小説を書き続けますか。
「さっきも言ったけど、ターゲットは息をするように一生、何がしかは書いていくはずよ」

99
読者に一言。
 女探偵は頬杖をついた。
「どう?報告はご満足いただけたかしら」
「ああ。ヤツはまだ未熟ではあるが、文字を弄して人々を惑わすペテン師だってのがよーくわかった」
「もしくは魔術師?でも、それで少しでも読者が日々のイヤなことを忘れられたらって、それが彼女の望みみたいよ。だからサイト名が『非上界団』っていうのね」
「ま、何にせよ参考になった。命を狙うスキだらけってことだな。約束の報酬だ」
 100ドル札を10枚財布から出すと、エージェントは1枚ずつ確認してハンドバッグに入れた。


100
あとがき。
「それじゃあここもお開きにしましょうか。ウェイターさん、清算を」
 女探偵が指を上げてテーブルの係を呼ぶ。目を閉じ、ターゲットを暗殺する方法をいろいろ考えていたオレは、周りを取り囲む気配に目を開けた。その瞬間、180°から突き付けられていた銃の撃鉄がカチリと上がる。
 横でひとり寂しくメシを食っていた小男も、奥のテーブルにいた東洋人の団体も、もうかったらしいイタリア男と小娘も、あだっぽい女2人組も、全員がオレに銃口を向けている。
 オレはなすすべもなく両手を上げ、真向かいで席を立った女探偵を見た。
「これはどういうことだ?……っ!」
 右腕を後ろにねじられ、テーブルに押し付けられる。いったい誰が、と苦しい姿勢から首を回すと、何とオレたちのテーブルを担当していたウェイターだ。
「動くな、警察だ。お前を御堂雪藍殺害未遂容疑と、去年のブルーノ・ビスコンティ殺害容疑で逮捕する!」
「貴様……探偵のくせに依頼人を売るのかよ!」
 オレがわめくと、エージェントは哀れっぽく肩をすくめ、ハンドバッグからカードを出してオレにつきつけた。
「だって、仕方ないじゃない?」
 カードは、銃携帯許可証(ライセンス)だった。写真は確かに目の前の女の顔。
 だが名前の欄を見てオレがどんなに悔しがったか、アンタらにはわかるまい。
「私が御堂雪藍なんだもの」
 女探偵はにこやかに笑った。
「ごちそうさま、楽しい食事だったわ。さっきの1000ドルは命を狙われた慰謝料としていただいておくわね」



 THE END.

 質問回答日2008/11/01 一部修正2012/08/12



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