ベイカー街
□【ビショップスゲイト宝石事件】 エピローグ
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【ビショップスゲイト宝石事件】
[エピローグ]
(2)
ホームズはそっけなく続けた。
「全くだね。その上、サンタンデールは貴族でも何でもない。恐らくアルメリア嬢は実家から連絡が行ったかどうかして気付いたんだろう。それでケンカになって街を出た。
一方、15歳のレディ・フローレスは彼にそそのかされるまま、こっそりラブレターを書いたようだね。家庭教師も彼の味方だから、たやすい仕事だったはずだ。
あなたが彼を野放しにしていれば、きっと彼はアストンビラ公爵をもゆすろうとしただろう」
「フン、この卑しい身も少しは世の役に立ったようだな」
鼻を鳴らしながらも、コラムニストはまんざらでもない口調である。
「ところでパイク、あなたは乗らないのか?」
駅に来たくせに、彼はステッキしか持たない手ぶらだった。
「夏はまだこれからだ。もうしばらく残って仕事をするよ。……そろそろ時間じゃないのか」
懐中時計を開くパイクに、ワトスンも再び自分の時計を見ると、定時であれば汽車が到着する時刻である。
復旧したばかりで多少遅れているのかも知れないが、確かにもうホームに行った方がよさそうだ。
「それじゃあ、元気で」
メアリと、続いてパイクとも握手を交わし、別れを告げる。
駅舎を抜け、屋根のない線路際に立つと、ホームズが尋ねた。
「この事件を公表するのか?」
「やめとくよ。メアリの身辺を騒がせたくないからね」
「……君は紳士だからな。そう言うと思ったよ」
コラムニストに思いっきり強く握り締められ、しびれの残る手をワトスンが振っていると、ホームズが怪訝な顔を向けた。
「何してるんだ?」
「いや別に、私も同じことをしてやったからおあいこさ。それにしても、君もメアリのこと気にしてくれていたんだな」
「何のことだい」
しびれが取れて、ワトスンはトランクを右手に持ち替えた。
「礼拝堂の地下で、『早く彼女を釈放してほしい』って言ってくれたじゃないか。女嫌いの君が、彼女に思いやりを持ってくれて嬉しいよ」
「あれは不当な逮捕だったからさ。僕は別に、女嫌いな訳じゃない。誰に対しても公平を心掛けているだけだ。僕が気に入らないのは……」
ピィーッと汽笛を鳴らして、列車がホームに入って来る。
「……君が、いつも女性に肩入れすることだ」
いくら汽笛に邪魔されていても、いくらふてくされたような呟きでも、横に立っていれば耳に入る。
(それって……嫉妬って言うんじゃないか?)
ワトスンは思わず笑顔になってしまった。
「私はいつでも君に1番肩入れしているし、これからもそのつもりだよ」
プシューッ、という停車の時の蒸気の音にまぎれても、ワトスンの言葉はちゃんとホームズに届いたらしい。
そっぽを向いてしまったホームズの手の甲が、こつんとワトスンの右手に当たりぬくもりが伝わる。
人目があるから、手をつなぐ訳にはいかない。それでも寄り添ってくれたことが嬉しくて、ワトスンは笑顔で開いた客車の扉へホームズを促す。
「さあ帰ろう、我らが懐かしい霧の都へ」
「……そうだな。長い寄り道だった」
こちらを見たホームズも微笑んでいた。2人が列車に乗り込むと、かん高い汽笛が鳴る。
バタンと扉が閉められ、列車はゆっくりと走り出した。
THE END.
・[秋月耀次郎]様から14000HITリクエスト、「ラングデル・パイクが登場して、宝石が関係する話」でした。仕上がりが大変遅くなってしまって申し訳ありません。少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
・ラングデル(と書いてラングデールと発音を希望。)・パイク氏は多方面から人気がありました。表社会と裏世界の境を歩いているような人ですからね……うさんくさげな所が好評です。今回は如何だったでしょうか。御意見・御感想頂ければ幸いです。下のclapよりどうぞ。
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