ベイカー街
□【シャーロック】 season1 第3夜EX
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BBCドラマ【シャーロック】第3夜EX
(1)
プールサイドに戻って来て勝ち誇るモリアーティ、突然大笑いするシャーロックにぎょっとする。
「何がおかしい?シャーロック」
「君はこれで僕に勝ったと思ってるみたいだからね。こんなに笑えることはないだろう?」
(おいシャーロック!)
姿の見えない狙撃手から当てられる、レーザーポインターが気になるジョンは相手を挑発するなと身動きできないまま目配せするが、シャーロックの方も何か言いたげに目を動かすので自分も視線を移すと、
(――プール?)
「君は僕の足元にも及ばない。僕こそが天才だと言うことを、証明してあげるよ」
酷薄な笑いに、ジョンもモリアーティもゾッとして背筋が粟立った。
「ハッタリだ!」
「まず君の部下のスナイパーたち!
モーティマー・マーベリー!君はイラクで手柄を立てたが、同僚の金を盗んで軍法会議にかけられたね!
それからヴィクター・リンチ!君はMI6にいたが、イラク諜報時に敵の暗号文の解釈を間違えて、女王陛下の軍隊に大きな損害を与えたね。それでクビになって、そこの不格好な男に拾われたんだ。
セバスチャン・モラン!レストレード警部は君のことをよく覚えていたよ。1988年の、警視総監狙撃事件の犯人は君だろう?奥さんとはその時別れ、娘は今24歳になっている。ホーボーンのスーパーでレジ打ちとして働いているね」
素性を暴かれ、うろたえて2人に当てられていた赤い光が揺れる。
(今だ!)
シャーロックはジョンの手を引きプールに飛び込んだ。
「何をしている、撃てっ!」
一瞬遅れてピュンピュン、と弾が飛ぶが、水面に弾かれるばかり。やがて水面にシャーロックのコートが浮かんでくるが、二人の姿はない。
「バカな、どこへ消えた……!?」
モリアーティがプールをのぞき込んでも、青い床が揺らめくばかり。
そこへどこからともなく、薄く笑ったシャーロックの声が響く。
『次は君の番だ、モリアーティ。君のクライアントには、手を打たせてもらったよ』
「何っ!?」
さすがのモリアーティも顔色を変える。
『シティで架空取引を計画中のアトキンソン兄弟は飲酒運転で逮捕された。別件逮捕だがこれで計画は実行できない。
妻殺しを君に頼んだヴィンセント・ハーデンはメールから足が付いて、取り調べ中だ。他にもあるぞ。……そうだ、君のクライアントたちの声を聞かせてあげよう』
シャーロックの声が、大勢のワイワイした声に変わる。
『モリアーティに頼めば安心と聞いてたけど、計画が台無しじゃないか!』『モリアーティに連絡したばっかりに、警察に目をつけられたわ!』『モリアーティなんてアテになるもんか!』『モリアーティなんか……』『モリアーティなんて……』
「やめろおぉぉぉ……!」
プールサイドで頭の大きなサラリーマンは耳を塞ぎ、よろよろと後ずさった。
そのとき、ドカーンと爆発音がして建物が揺れ、モリアーティは突き飛ばされるように尻もちをついた。何が起こったのか、茫然としている間にもガレキがぱらぱらと落ちる。
『ここには至る所に僕が爆弾を仕掛けておいた。さあ警察が来るのとここが粉々になるのと、どっちが早いかな?』
もう一度ドーン!と衝撃が起こる。
『屋根の上のスナイパー諸君は足場がなくなるかもな、ハーッハッハッハ……!』
血の気が引いて、紙のような顔色になったモリアーティは、よろめきながら立ち上がった。サイレンの音が聞こえる中、プールの底をのぞくもやはり青い床が揺らめいているだけ。
「この借りは……必ず返す!」
悔しさに歯噛みしながら、凶悪な顔で逃げる。
やがてプールサイドが警察でにぎやかになったころ、ようやくシャーロックは水面から顔を出した。
「やあ警部」
「またハデにやったものだな。君も巻き込まれて災難だったろう」
「……全く」
レストレードの手を借りて、ジョンも引き上げられる。
シャーロックは水の滴る髪をかき上げた。
「この場所を指定したのは僕だ。ここがもうすぐ取り壊しになると、気付かなかったのが奴の敗因さ」
所有者と交渉し解体用の火薬を各所に仕掛け、プールの底には床と同色の青い板を置いて、酸素ボンベも用意しその下に隠れていたのだった。
毛布をかぶったシャーロックはスナイパーたちやモリアーティの情報を伝え、ジョンと現場を後にした。
(2)へ続く。