■main story
□猫3
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両親ともに仕事が忙しくて寂しかったあの頃、じいに頼み込んで飼わせてもらった。
猫がほしいなら新しい綺麗な猫を買ってあげたらどうかしら、
と言う母に俺の頼みだと承諾してもらったのだと後に聞かされた。
子猫を拾った日。
俺はあの日、教師とSPの目をかいくぐって初等部を抜け出した。
どこか遠くへ行ってしまいたいと思っていた。
「ごめん、君は飼ってあげられないんだ・・」
走って走って川の傍まで来たときだ。
土手に子猫を抱いた少年が座っているのが見えた。
俺と同じくらいの年だろう。
「おい」
「だ、誰?」
声をかけると、その少年は泣き腫らした黒い瞳で俺を見つめた。
「俺は・・近くに住んでるんだ。お前大丈夫か?」
他人のことを心配するなんて、初めての経験だったかもしれない。
一人で泣いている同じくらいの少年に心ひかれた。
「ずぶ濡れだぞ、それに・・何で泣いてるんだ?」
彼の吸い込まれるような瞳には大粒の涙が光っている。
俺は見てはいけないような気がして目をそらしていた。
「うっこの子、川に流されてたんだ。一人ぼっちで泣いてたんだ。
でも僕のうちおじい様、猫アレルギーで飼ってあげられない、ひっく。」
どうやらこの少年は川に入って猫を助けたため服はずぶ濡れ、
助けたのはいいがその対処に途方にくれて泣いていた、ということのようだ。
今思えば、あの少年も一人で猫と戯れるうちに何か自分と重ね合わせるところがあったのかもしれない。
幼い心で、自分も猫も一人なのだと。あの頃の俺と同じように。
「よし、俺が家で飼ってやるよ」
気がつくと俺は声に出して宣言していた。
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