■main story

□音
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一通り話しつくしたのか、手塚は満足そうな面持ちでリョーマの向かいでお茶をすすっている。
手塚の唇の端が、ほんのわずかにあがっているのがリョーマにはわかる。
目もともわずかだがいつもよりふにゃふにゃと和らいでいる。

部長可愛いッス可愛いッスと心の中で何度も呼びかけながら、顔では何でもない風を装う。
それでも堪らなくなって、部長、と呼んでみる。

「なんだ」

「いえ、なんでも」

「?」

軽く眉を潜めて首をひねっている様子までもが愛らしい。
リョーマはへへっ、と思わず笑いがこぼれてしまいそうになるのを抑えながら、
手塚が入れてくれたお茶に手を伸ばした。

穏やかな空気が二人の間を漂っている。
ふいにリョーマがよっと腰をあげた。

「部長、俺ちょっと下行ってくるっす」

「ああ」

用を足しにでも行くのだろう、と思いながら手塚は残りわずかになったお茶を見た。

「今月の雑誌そこにあるんで、良かったら見といてください」

「ああ」

言いながら残りのお茶をすする。

「あ、お茶のおかわりも持ってきますね。」

「あ。すまない。」

手塚を見て、口元に幸せそうな笑みをこぼしながらリョーマは部屋を出た。

パタンと部屋の戸がしまる音がしてから、手塚はことんと机にお茶を置き、辺りを見回した。

もう何度か訪れたことのある部屋。
手塚はベッドの上に無造作に置かれた月刊テニスに目をやった。

“また出しっぱなしにして‥”

と軽く眉を潜めながら手を伸ばした。

今月の特集は先月のウィンブルドンの解説か。
来月末の全米オープンについても書いてあるかな、とわくわくしながら手塚はページをめくった。



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