〜Unstable(魔法)〜




「お、とーしゃん」

“お父さん”…そう言ったつもりなのだ。
いい加減羞恥とか居た堪れなさとかはなくなったが、無性に泣きたくなる。思ったら本気で泣くから深く考えないけど。
小さく呟くように言った俺の声は相手の耳に届いていたようで、満面の笑みで俺を抱き上げた。

「どうしたんだい、ハリー?」

「…よんでみた、だけ」

「ああぁぁあぁもう、可愛いな僕のハリーは!!」

僕ってば息子に愛されてる!!と嬉しそうに言ってからぎゅーっと抱き締める父さんはかなり俺のことを愛してる。

「ほらジェームズ、ハリーが苦しいでしょ」

もちろん、母さんのことも愛してる、それも凄まじく。
夕飯の乗った皿をテーブルに置きながら、朗らかに笑う母さんは、我ながら美人だ。決して自慢ではない。
父さんがあの手この手で母さんの気を引こうとしていたのも、実物を見れば納得する。
あ、そう言えば、と言葉を続けた母さんに父さんが漸く落ち着く。
この人は基本母さん中心に世界が回ってるんで。

「庭のお花が全部咲いていたでしょう?」

「ああ、綺麗に咲いてたね。それがどうかしたのかい?」

「あれね、ハリーが咲かせたのよ!」

初めて魔法を使ったわね、という言葉は途中で聞こえなくなった。
父さんがさっき以上に抱きしめてきたからだ。痛い痛いイタイ!
っていうか母さんそれを言うな!
俺がメルヘンなやつみたいだろ、断じてそんなことはない。
庭の花壇の前に座り込んでたら花が勝手に咲き出したんだ俺がやったんじゃない。

「さすが僕の息子だぁああぁあ!魔法のセンスもピカイチじゃないか!!」

「そうね、でもあなたには似てほしくないわね」

「えぇ?!ど、どうしてだいリリー!!」

この世の終わりかと思うほどショックを受けた様子の父さんに母さんがフフフ、と笑う。

「ホグワーツに行った時にトイレなんか送ってきちゃうかもしれないでしょう?」

「えっ、僕はトイレなんか送ったことないよ!」

「でも学校中のトイレを廊下に並べたことあるじゃない」

初耳だ。
トイレを廊下に並べるとか…しかも学校中の…さすが悪戯仕掛け人はやることが違う、大丈夫母さん俺は絶対しない。

「でも最後にはリリーだって笑ってくれたじゃんか」

「呆れてたのよ」

そう言う母さんは、その当時を思い出しているのかどこか楽しそうだ。
なんだかんだで、母さんも父さんのことがかなり好きだと思う。
本当に、いい家庭だ。

「でも、そんな僕と結婚してくれたよ」

「そうね…どうしてかしら?」

「え、ちょ、リリー!?」

「ふふふ、ウソよ、愛してるわ」

「〜〜〜〜〜ッ僕も愛してるよリリー!!!」

だからと言って息子の前でいちゃつくのはやめてほしい、俺を挟んで抱き合うのもやめてほしい切実に。

ガチャ

「やあ、ジェームズいるか、い……」

やって来たシリウスの非常に冷めた眼が印象的だった。
見飽きたんだろうな…。










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