I was born

□今生の別れ
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幸せそうに微笑む2人を見ていると、急に苦しくなった。

『……ゴフッ…ガハ』
「紫水!?」


口から大量の血がこぼれ出てきた。
秀元様も焦ったような声をあげ、それに気付いた良い雰囲気だった姉上たちも、それを見ていた梅若師匠もこっちを見る。


「部屋に下ろすで」


秀元様は呟くと、さっきまで戦場だった部屋に飛び降りた。


「紫水!!」


式たちが色とりどりの煙になり数珠の中に消えていく。初めて命じてないのに式たちが消えた。これは私の霊力がつきたってことだろうか?

そう思う中も血が止まることなく私の口から心臓があった場所からあふれ出す。


「おい!これはどうゆうことじゃ!!」


狒々様がこの異様な雰囲気を察知してか駆け寄ってきた。

すぐに治るはずなのに。

傷が再生している感覚はある。
ムズムズとしたような感覚がしている。でも、ふさがっているのが表面だけで、中が全く治癒しない。


「傷は全て治るのではなかったのか!?」


戸惑った様子の梅若師匠が声を荒げる。


『ゴホッ…さ、き……しん、ぞ、を…とられ、た』


それだけを喋るのが精一杯。

それで実感した。
私は死ぬ、と。

まさか、心臓がとられたら治らないよな。


「待って紫水!すぐに治すから」


姉上が私の隣に座り込み手をかざしてくる。でも、私はその手をゆっくりと押し返す。


「え……」


自分の体だからかな、もう無理なのが分る。どうやってもこの体が治ることない、と思った。

死ぬ前に、伝えたいことがある。


『し、しょう…狒々さ、ま…ひで、とさま…』


普通なら即死なのに、無理矢理に体が治そうとするので体がすごく悲鳴をあげる。こんなときは治癒能力なんていらなかった、と思う。

早く、楽にしてくれ。


『あ、ありが、とう…ござ、した…』
「な、何を言っている!」
「そうじゃ、治るのだろう!?」


梅若師匠と狒々様が取り乱したように叫ぶ。
秀元様も悲痛な表情を浮かべて俯いている。

私はいい人たちに囲まれた、と実感する。


『ほ、んとに…ありが、とう』


何度もありがとうと言葉を紡いだ。

フルフルと震える腕で私は随分と重くなったような気のする黒刀と数珠を梅若師匠の前に突き出した。


『お、ねがい、です…これ、を……もって、てくだ、さい』


驚きに歪む梅若師匠の顔が絶望に染められる。
逡巡しているのか梅若師匠の手が出ることがない。


『おねが、い…わた、しの、だい、じ……なもの。もって、くだ、さい』
「……くっ」
「持っとってやり…あえて君を選んだんやから」


秀元様が悲しそうに笑うと梅若師匠はやっと受けとってくれた。重みのなくなった私の手は力なく落ちていく。


『…よ、かい…』


次はぬらりひょん。


『はぁ…はぁ…あね、うえを……泣かせ、たら、ゆるさ、ない…から、な』


そしたら私が地獄の底から殺しに行く、と言うとぬらりひょんは静かに頷いた。


「ああ。珱姫はワシが幸せにする」


むかつく。
でも、それが聞けて良かった。

私はホッとしたような感じで笑んだ。


最後に姉上を見る。姉上は目一杯に涙をためて、嫌々と拒絶するように首を横に振る。


『あ、うえ……これから、は…守れな、いけど……姉、上を、守って、くれる、人が………側に、いてくれ、る…人が、いるから』


私はこれ以上一緒に入れないけど、姉上を大切にしてくれる人がいる。認めたくはないけど、素直に格好いいと思うから、あなたに託すよ。

私の顔の上に姉上の涙がポタポタと落ちてくる。それにつられてか、私の視界がぼやけて、鼻がツーンとしてきた。


『あね、えが…だい、すきだ、た』


姉上が大好きだった。一緒にいると暖かくて楽しくて。少し、ドジなところがあって、でも優しくて、泣き虫で。

ほら、今も泣いてる。


『あ、ね……わ、て』

姉上、どうか、笑って。


最後に姉上の笑顔が見たい。


「いや…いや…紫水、死なないで」


違うよ、姉上泣かないで。笑って。


「珱姫……」


ぬらりひょんが姉上の肩を抱きながら名前を呼ぶ。

姉上は一瞬顔を歪めたけど、最上級の笑顔を見せてくれた。
まるで桜が満開になったかのような笑顔。全ての心を温め、乾きを潤す、そんな笑顔。


『あり、とう…ど、か…しあ、せ、に』

どうか、幸せに、姉上。


私の瞼がゆっくりと下りていく。
私は大好きな人たちに囲まれて眠りについた。




*了
 

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