I was born 3
□その傷を治そう
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やはりと言うか、リクオはまったくと言っていいほど京妖怪に刃が立たなかった。
羽衣狐に相まみえることすら叶わず、仲間はちりぢりになり、さらに人質としてつららが奪われ、リクオ自身も重傷を負った。
リクオは己の無力さを嘆き、歯を食いしばることしかできなかった。
一方、俺は戦える。
もしも俺が手助けをしていたらリクオは土蜘蛛に勝てていたかもしれない。だけど、俺はただ見ていただけ。
あえて手を出さなかった理由にはもちろん見つかりたくなかった、と言うものもあった。
しかし、この状況が何よりもリクオを大きく強くすると思ったから。人間に手を出すような小さい男だが、やっぱり漫画の主人公になる男だ。こんなところで終わる器じゃない。
だから、ただ見ているだけにした。
これでもしも、つぶれてしまえば俺が原作を壊してしまったという事なのだろう。一応責任はとるし、姉上の孫だから、命だけは助けよう。
まあ、それでも今も必死に修行をしているのだから保留だな。
なによりこの京に来たのは俺の目的があってのこと。
それにリクオを利用させてもらおう。
かなりの自分本位な考えを頭の中でしながら俺は牛の頭蓋骨を被り、家から持ってきていた若竹色の着流しを着た。
向かうはリクオが身を隠しながら修行をしている古びたお堂。
石段を上がるたびにカランコロンと下駄の音がなる。
俺は草履よりも断然下駄のほうが好き。
カランコロンと音をあえて鳴らしながらも、上の気配を探る。
ここに梅若師匠やそれ以外がいればいろいろと終わる。中でも梅若師匠には絶対に会いたくない。
会えば必ず、怒られる。どうしてこんなところにいるのか、と。
言葉にはしないが、梅若師匠は呪いを刻んだ羽衣狐に俺を会わせたくはないようだ。話しですら、俺の前でするのを避けている。それは些細なことだが、分ってしまうのだ。
だから、ここは慎重に……
「誰だ、テメェは!!」
梅若師匠にばかり気を取られすぎた。
知らずに溜息が漏れ出す。
そして、こっちに殺気と呼ばれるものを飛ばしてくる金髪のあんちゃんを見る。
そいつ自身には会うのは初めてだ。リクオの義兄弟の鴆。
傷ついたリクオを庇うように前に出て俺を睨んでいる。後ろに居る昼バージョンのリクオは若干の驚きをその顔に現している。
『牛鬼様はいらっしゃいますか?』
「ああ?牛鬼だと?それより誰だって聞いてんだろうがっ!」
「ま、待って、鴆くん!」
まったく血の気の多い奴だな。
「リクオ、知ってんのか?」
「う、うん。前に牛鬼の屋敷で会った」
鴆に軽く説明をするとリクオは俺に目を合わせた。
その瞳は陰った色じゃなく輝いているのを見れてどこか満足する。まだ、諦めてない。
「牛鬼は、ここにはいないよ」
『そう。でも、長居は出来ませんね』
「え……どういうこと?牛鬼に用なんじゃ……」
『私は牛鬼様にここに来ることを許されておりません。何も言わずにここにいるので牛鬼様に知られること厄介なことになってしまいます』
昔を思い出して柔らかな敬語を意識する。
これだけで別人のように変わると梅若師匠にももちろんぬらりひょんにもお墨付きだ。
『私はある目的のために羽衣狐に死んでいただきたい。ですが、羽衣狐に会うことは牛鬼様から禁じられております。その中であなたならば羽衣狐を倒せると考えました。今、あの女狐を殺らなければ、私の願いは一生叶わない』
噛んで含めるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
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