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□あのときから
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どこか遠くで誰かが俺の名を呼んでいる。
返事をしたいのに、此処にいるって示したいのに・・・俺の身体は動かない。
「ソウ、・・・ソウ」
そんな、悲しそうに俺の名を呼ばないで。
お願い、泣かないで。
「ソウ・・・っ、」
お願い、呼ばないで
あの瞬間から、
(俺の時間は止まったまま)
(お願い、俺を眠らせて)
レッドがチャンピオンになった。
テレビを通してそれを知り、俺は純粋に喜んだ。
幼い頃からの夢だった。
すごいポケモントレーナーになること。それが達成された今、彼の次に目指すものは何なのだろうか。
新しい夢を抱き、きっと彼はまた歩き出すのだろう。
俺を、過去に取り残して。
「もう、やめてくれ」
毎晩、夜が来るたびに聞こえてくるんだ。
俺の名を震える声で呼ぶ、レッドの声が。
ああ、きっと彼は泣いているのだろう。だけど、俺はその涙をぬぐうことも、近くにいってやることもできないのだ。
こんな身体、いらない。
この場所から動けず、自由さえもない体なんて。
「泣くな、呼ぶな・・・レッド」
あれから長い月日が経った。
当時は幼かった近所の子供は今では立派な青年へと成長した。
変わらないのは、マサラのこの空気と風景と、俺の身体だけだ。
成人を向かえ、しかしまだ若いこの身体は本来ならばもう親父と言われるぐらいなのだろう。
しかし、変わらない。何もかもが、あの日から何も進んじゃあいないんだ。
「・・・もう、解放してくれ・・・よ」
もううんざりだ。・・・いい加減、眠らせてくれ。
俺は暗闇に融けるよう、目を閉じた。
END
(ああ、レッド)
(気がついているんだろ?)
(俺はもう帰ってこないんだ。)
((気がついてくれよ))