とある隠れ変態の物語

□子猫ちゃん拾いました。
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突然だけれどオレの頭の中にはメロディーが鳴りだした。


迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのお家はどこですか、と。

そう、どしゃ降りの雨の中にオレは子猫ちゃんを見つけたのである。それも膝を抱えた子猫ちゃん。


しゃがんで膝に顔をうずめる様子なんかもうきゃわゆいの権化でさぁ、ねぇこの少年口説いて良い?

にやりによりと激しく怪しい以外に形容しがたい変態的笑みを口元に貼り付けるイケメン。
周りにはさぞかし残念に映ったことだろう。

「君」

何とかにやにやを抑えて子猫ちゃんに声をかける。
顔を上げた子猫ちゃんは黒縁メガネっ子だった。もう萌えの結晶だ。
あぁああぁ可愛い!!
背丈はあるし、かっこいい系なんだけど子猫ちゃん以外に何と現したらっ……。
上目遣いがたまらない。ぽかんとした顔もたまらない。出来れば抱きしめたい、そしてそのやらしいうなじに指先を這わせたい!!

「ずぶ濡れだよ。大丈夫?」

傘を子猫ちゃんの頭上に持って行き、自分もその場にしゃがみこむ。顔をよく見ると……

い、イケメンだ。
とんでもないイケメンがここでびしょ濡れになってるよ!!色香がむんむんしてるぅう!!!!

大変だほっぺの肉がひくひくしてきた……いつもなら我慢出来るのに、にやにやがっ。

完全に変態思考な事で頭をいっぱいにして微笑みかけるイケメン。世の女の子達はこれを知ったらどう思うだろうか。

我慢して我慢して、いやらしくは見えないであろうまんべんの笑顔で見つめると、なんと子猫ちゃんが

がばっ!っと抱きついてきた。
そして一言。
いや、二言。

「寒い。お兄さん助けて」
「うん、いいよ。家においで」


もう即答。即答だなんてこったい。何だこのイベントは。現実世界はいつから攻略ゲーム方式になったのだろうか。
分からないけどラッキー!!
内心ガッツポーズを取りまくりながらどさくさに紛れて腰に腕を回すとお兄さんえっち、なんて表情を変えずに言う。
何?変態め?ははは、今更何だ。ゴーイングマイウェイだ。

「まぁまぁ、ね。ほら立って」

子猫ちゃんを支えて立たせ、傘の中に入れて肩を抱き寄せる。
すっかり冷え切った体を少しでも温めようと、バックから出したタオルで拭く。何て素晴らしいイベントだ。うわ色っぽい。滴る雫とか伝う首筋とか鎖骨とか。あはははやばい!!


さぁ、行こうか。子猫ちゃん。家はすぐそこだからね。
楽しい休日の始まりだひゃっほーい!!明日が休みで良かったー!!




――真田家

「ありがとうございます」
「いいえ。寒いよね?タオル持ってくるから」

着くやいなやぺこりと頭を下げる子猫ちゃん。何て礼儀正しいんだよし後でなでなでしてあげよう。タオルタオル、っと。
洗面所のオレンジ色の棚をあさくって目的の物発見。いざ、少年の元へ。いざ、少年の元へと下心を頑張って隠してタオルを渡すと、こてんと首を傾げられる。

「何でここまでしてくれるんですか?」

ああそれか。

「だってあんな雨の中にいたら風邪ひいちゃうでしょ?オレ一人暮らしだから遠慮しなくて良いよ」

だってこれはチャンスでしょ?可愛い子猫ちゃんがずぶ濡れになってたら理屈こねて持って帰って来なきゃ。オレ一人暮らしだから遠慮なんて必要無いし。えへへ。

「お兄さん優しいんですね。助かりました」
「いえいえ。気にしないで」

いえいえ。下心満載ですから。

「侑里(ゆうり)」
「え?」
「オレの名前です。君じゃなくて名前で呼ばれたいので」

おおおそれはそれは。
呼んで下さいじゃなくて呼ばれたいのでときたか。何て可愛い思考回路してるんだ。そして初対面のオレに名前を教えてくれるとは。何て無防備なんだ、是非とも襲わせて頂きたい。

「うん分かった侑里くん。オレは尚輝(なおき)って呼んで?」
「尚輝……お兄ちゃん?」

こてん、と再び首を傾げる侑里くん。
うわぁぁあ不意打ち不意打ち!!何々どうしよう!?お兄ちゃん?お兄さんじゃなくてお兄ちゃん?!!!
大事な事だからもう一回言うよ、お兄ちゃん?!

「そう。宜しくね」
「宜しくお願いします、尚輝お兄ちゃん」

やはり笑いはしないけれど、少しだけ、少しだけ表情がやわらかくなった気がした。

「お願いがあります。迷子になったので、助けて欲しいんです」
「うん、分かったよ。とりあえず、中入って?」
「おじゃまします」
「はいどうぞ」

迷子か……。って事は。
♪迷子の迷子の子猫ちゃん
は間違ってなかった訳か。我ながら凄いな。でも何で迷子?もしかして

「究極の方向オンチなんです。すみません」

やっぱり。
何て可愛いんだ、方向オンチ?それならお兄さんが何処へでも連れて行って――、あれ?
そういえば侑里くんて何歳なんだろ……。

「ねぇ侑里くんてさ、何歳なの?」
「15歳……中三です。お兄ちゃんは?」
「オレ?オレは17歳――高二だよ」
「高二……ですか」
「そうそう。あ、そうだ。侑里くんち、電話しないとね?きっと皆心配してるよ」
「番号…………忘れちゃった」
「そっか、忘れちゃったか」

本当に可愛いんだなぁ、自宅の番号も忘れちゃうなんて。

……………………ん?

て事は。

「えぇえええ!!」

この子、家帰れないじゃないか!!?!
どうするの?!

どうするの、もらっていいのっ?!

こんな状況でもそんな思考回路になってしまう自分が恨めしいが、どうしてもそう考えてしまうのだから仕方無い。

にしても……

どうすんの、この状況。

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