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□ハローハッピーワールド
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ニタロウ、と自らを名乗った少年は夏の風物詩のようであった。格好のことだ。
ベージュの短パンに白いタンクトップ、麦わら帽子。田舎情緒を感じさせる。もちろん虫取アミも忘れていない。
10も越えたか怪しいだろう年頃と容易に想像できる。本当に子どもである。それぐらいに幼かったが、なまえはとにかく必死で話した。訳の分からない現状に、放り出されてからずっと、会話というものをしていなかったのだ。
その分を取り戻そうと、鬱陶しいかったろうが、必死で話した。時々どもりながら噛みながらつっかえながら、そのせいで何を話しているのかお互いが分からなくりながら。

「……えっと…分かった」
「本当?」

本当は全然分からない。ニタロウの目は戸惑いで一杯だったが、それでもなまえの問いかけに頷いた。
戸惑いながら、どこかで自分がしっかりせねばと気負っていた。だからなまえの突拍子もない話に耳を傾けた――必死で、真剣に。本当に真剣にニタロウはなまえの話を聞いた。

年上に頼られる――10も離れているほどの年上に――ことなど無かったから。年上であるなまえが胸のうち全てを晒してまで頼るから。ニタロウは自分なりに、重大な事であり、何とか出来るのは自分だけだと確信していた。
だから支離滅裂な話にも必死で耳を傾けたのだ。



「えっ………と、多分出られないのは此処のせいだと思うんだよ」
「此処?」
「うん。トキワの森って迷路だから、慣れないと遭難する人も出るって」



だから。
続けようとした言葉をニタロウは引っ込めた。

「トキワ」の単語になまえの顔がひきつったからだ。
ニタロウは首をかしげた。あんまりにも真っ青な顔色だったのだ。なのに少し笑っていて、それでも少し泣きそうな感じだったから。



「どうかした?」
「……いや。なんでもないよ。な、ニタロウくん。
私、今頼れる人誰もいないんだ。だから」
「うん」
「あの、あのね、ニビまで連れて行って欲しいんだけど」



ああなんだ、そんなこと。――お安い御用だ。安すぎる、拍子抜けするくらいに。
トキワの森なんて遊び場だから、ニタロウにとっては簡単すぎたのだ。ニタロウは虫かごからモンスターボールを取り出した。羽をふわりとなびかせバタフリーが現れる。先ほど進化したのだ。可愛らしい声で鳴き、ニタロウの周りを飛ぶ。なまえは少し引き攣った顔でそれを見ていた。



「バタフリー苦手?」
「、いや、違う、よ。あまり見ないから、驚いただけ」



ニタロウは首を傾げて、でもまあいっかと思い直して、こっちだよと言った。









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