□青山玲士編

□照れ屋な彼の密かな努力
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 彼の部屋。
 いつも通りヘッドフォンを付けながら彼はデスクに座っている。
 だけど、いつも通りなのはその姿だけで、それ以外は信じがたい光景。

「あ、髪切ったんだな。」
「―――」
「いや、似合うんじゃないか?」
「―――」
「き、君がす、す、素敵過ぎて、だ…。」

 目の前で繰り広げられる奇妙な光景。
 今、声をかけてもいいものだろうか…?

「…言えるか。そんなこと。」

 ぼそっと呟いてから、彼はおもむろにヘッドフォンを取った。
 どうやら奇妙な一人芝居は終わったらしい。
 さて、ここからどうやって声を掛けよう…?
 タイミングを失った私は悩みながら立っていた。

 ふぅーと一息付いてから、彼はゆっくりと立ち上がる。

「休憩でも―――うわっ!!!」

 どうしたものかと佇んでいた私とがっちり目があってしまった。

 青山さんは驚いた後、バババっと顔を赤くした。

「いつからいてたんだ――?」

 不安を秘めた声色に申し訳なさが募るけど、私はありのままを伝える。

「ヘッドフォンを付けて、何か言ってた時――」
「聞いていたのか!?」

 言葉の途中で投げかけられた言葉には「最悪だ!!」と言う感情が乗っていた。

「はい…意味はよくわからなかったですけど。」
「なぜ声を掛けなかったんだ…。」

 ぐったりした青山さんは私を直視しないで言う。

 やっぱりあの会話って…

「言える雰囲気じゃなかったんで。あれ、なんだったんですか?」
「……君が知る必要のないことだ。」

 真っ赤な顔に平坦な声。
 平静を保とうとしていることは一目瞭然だ。

「…そうですか。会話の練習みたいに聞こえたんですけど、違ったのかな…?」

 私がボソッと呟くと青山さんの体はわかりやすく跳ねて、恨めしそうにこっちを見た。

「……わかっていて訊いたのか?君は。」
「いえ。そう聞こえたって話ですよ。」
「………」

 青山さんは観念したのか、ぼそぼそと話し出した。

「昔、千鳥が作った会話上達ソフトを聞いていた。プログラムに対象相手の行動パターン等が入っていて、俺の質問に相手が言いそうな答えを返してくる。…会話下手な俺のため、千鳥が改変し押し付けてきた。」
「へぇ。対象相手って…もしかして、」
「君だ。○○に決まっているだろう。」

 デスクに片手をついたまま、青山さんは話す。

 気にしてなければ、押し付けられても、ほおっておきそうな彼の性格からみて、練習していた事実があるということは……

「会話下手だって気にしてたんですか?」

 ストレートに訊いた私の顔を一瞬見た青山さんは、さっと視線を外し「まあ、そうなるな…」と言った。

(可愛い…)

「俺の話は事実や理屈ばかりでおもしろくないと言われるからな…」

 前にも聞いた台詞を聞く。
 青山さん、結構気にしてたんだ。

「そんなことないですよ。青山さんと話していると楽しいですって。前にもそういいましたよ?」
「あぁ、そうだな。」

 青山さんは少し嬉しそうに口元をゆるめる。

「それにペラペラ気の利いた言葉が出てくるより、今みたいに言葉を一つ一つ探す青山さんが好きです。私はそんな青山さんが好きなんです。」

 にっこり笑ってそう言うと青山さんは驚いた後、優しく微笑んだ。

「そうか…ありがとう。」

 そして、ぎゅと抱きしめて、耳元で囁く。

「○○がそういうのなら、このままの俺でいよう。」
「はい。そのままでいいです。」

 青山さんはふっと息を吐き、私の頭に顔を埋(うず)めて、こう言った。

「ん?シャンプー変えたのか…?」

 すごい。
 ちょっと練習した成果があるんじゃない?


【照れ屋な彼の密かな努力】

END

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