□黒峰継編

□ある晴れた月曜日
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 ある晴れた月曜日。

 廊下に足音が響く。

 それは透明な扉を前にして鳴り止んだ。

「やっぱり…」

 ○○は職員食堂で、優雅にコーヒーを飲んでいる黒峰を見つけて、肩を落とした。

 ため息をつきながらも黒峰に近づく。

 それを見て、黒峰は何事もなかったかのように声を掛けた。

「よう」
「…ようじゃないですよ。何してるんですか?こんなとこで」
「見りゃわかんだろ。コーヒーを飲んでる」
「そうじゃなくて、何でここにいるんですか?って訊いてるんです!」
「コーヒーが飲みたかったからに決まってんだろ」
「もう!だから!!」
「イライラすんなよ。眉間にしわが出来てんぞ」

 ○○はパッと眉間を押さえ、キッと黒峰を睨みつけた。

「誰のせいだと思ってるんですか!?」
「自分のせいだ。お前の筋肉が眉間にしわを寄せてんだろ」
「――っ!もう!!」

 頬杖を付きながら、もう片一方の手でカップを縁をトントンと指で叩き、涼しい顔で屁理屈を言う黒峰を見て、○○は再びがっくりとうなだれた。

「早くパトロールに行きましょう。今日のパトロール、黒峰さんと私なんですよ」

 頬杖を付いた手をぐいぐいと引っ張りながら話す○○だったが、黒峰はビクともしなかった。

「黒峰氏。××が困ってる」

 そんな二人の様子を見ていたゼロが声を掛けた。

「心配すんな、ゼロ。これは××流のコミュニケーションの取り方だ」
「なっ!?違いますよ!ゼロくんの言うとおり、困ってます!本当に行きますよ!もう!サボらないでください!!」
「人聞きの悪いことを言うなよ。俺はゼロの疑問に答えてたんだ」
「へっ?…どう言うことですか?」

 黒峰の言い分に、腕を必死に引っ張っていた○○の手からふっと力が抜け、きょとんと黒峰を見た。

「――ったく、力一杯引っ張りやがって。見ろ。赤くなっちまっただろ」
「あ〜、すみません。で、今言ったことは何ですか?」
「なんだよ、その気持ちのこもらない謝罪は。まぁいい。××、これだ」

 黒峰はテーブルの上にあった新聞を広げて、ある記事をトントンと叩いた。

「こ、これは――」

 黒峰が指した記事を見て、○○は言葉を失った。

 そこには、

『下野のパンダの交尾確認』

 と、あった。

(あ〜、嫌な予感がする)

 頭が痛くなった○○であったが、事の詳細を聞くべく、一応黒峰に問いかけた。

「で、ゼロくんの疑問、とは…?」

 黒峰はコーヒーを一口飲み、答えた。

「そのままだ。これはどういう意味だと訊かれた」
「で、黒峰さんは…何と…?」
「これは人間で言う●●――」
「うわ〜〜わ〜〜〜!!!わかりました!わかりました!もういいです!!って、何てこと教えてるんですかっ!?」

 ○○は慌てて黒峰の言葉を遮り、ゼロをチラッと見た。

 ゼロは少し首を傾げて、不思議そうに二人を見ていた。

「――と、答えたいところだったが、俺にも親心ってもんがあるからな。自然の営みを経て、この先に子供が産まれる可能性が出来た、と答えておいたぜ」

(よ、よかった…)

 黒峰は明らかにホッとした○○を見て、にやりと笑った。

「じゃ、もう解決しましたよね。行きましょう、パトロールへ」

 ○○は扉に向かい歩き出した。

「それがそうはいかねぇんだよ」
「はっ?何で?」

 ○○は足を止め、くるりと振り返った。

「交尾一つで世間が狂喜乱舞するパンダとやらをゼロは見たいんだとよ」
「そうなんですか」
「そこで、だ。今日のパトロールはゼロに譲ってやる」
「じぇじぇじぇ!」
「終わり次第、動物園に連れてってやれよ」
「ちょっと!うまいこと言って!騙されませんよ!」
「疑問ってのはな、すぐ解決するに限る。一旦基地に戻ってからじゃ間に合わねえ。俺は泣く泣く辞退する。さっ、行ってこいよ」

 両方の拳を握りしめプルプルする○○。

 怒りが頂点に達した○○は黒峰の耳を力一杯引っ張った。

「それとこれとは別です!!」
「痛ぇ!離せ!オラッ!」
「ほら、つべこべ言わずに行きますよ!」

 遠慮なくぐいぐいと引っ張られた黒峰は顔をしかめながら渋々席を立った。

 そんな二人の様子を黙ってみていたゼロに○○は声を掛けた。

「ゼロくん。次の休みにパンダ見に行こう」
「本当?」
「本当だよ。お弁当持っていこうね」
「うん!」

 爽やかなゼロの笑顔と、しかめっ面の黒峰。そしてズンズン歩く○○。

 そんな三人が交差する、ある晴れた月曜日。


【ある晴れた月曜日】

END
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