□青山玲士編

□雨とショコラとTAXIと…
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 雨が窓に当たり跳ねている。
 ゆっくりと景色が動く。
 君はその景色を見ることなく、大きく船を漕いでいた。
 コートを脱ぎ、○○の頭をそっと自分の肩へと引き寄せ、コートを掛けた。

 俺はふっと息を吐き、自分の行動に苦笑いをする。

 今日は2月14日。
 バレンタインデーだ。

 去年、俺以外にチョコレートを渡す姿に軽い嫉妬を感じて、今年は有無も言わさず、○○をコンサートへ引っ張ってきてしまった。

 さすがに平日だから朝からというわけにはいかなかったが…

 もうすでに何個か誰かに渡しているのかもしれない。
 義理だとわかりながらもこんなに気にする自分に呆れてしまう。

 これほどまでも好きになっているということなんだろうか――

 俺は内ポケット仕舞い込んだチョコレートを出して眺めた。

 出来るだけ遅く帰りたくて、珍しくディナーを食べて、イエローマンではないバーに行き、帰りのタクシーに乗ったときに、○○が小さい声で「これ…」と渡してきた。

 14日になってから、23時間と13分50秒。

 もしかして今年はないのかと思い始めていた矢先の出来事だった。


 バレンタインデーなんて、つまらないイベントだ。

 何故、この日だけ積極的に愛を告げられるのだろう?
 2月15日に好きな人が見つかった照れ屋な者は一年間待つのだろうか?

 今日告げられる勇気が出るならいつでも出来ると思うのだが――

 それとも、うまくいかなかった時、まわりにも同じ様な境遇の者が沢山いるかもしれないという安心感があるのか――?

「ん……」

 落ちそうになる○○の頭を肩に戻し、俺は理屈っぽい頭をリセットした。

 世の中に幸せが溢れるなら、それでいいのかもしれない。

 現に俺は今、幸せだ。

 俺は○○の頭に自分の頬を寄せ、そっと目を瞑ったのだった――

END

【雨とショコラとTAXIと…】
 

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