□夢小説(STRANGE PRADISE)

□04.願い
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 あと何回、時を刻めば痛みを忘れられる?
 刻んだ時の分だけオレは強くなれる?

 違う――

 刻んだ時の分だけ心は血まみれで、傷が増えていった

 忘れていくのは痛みじゃなくて、忘れたくないものばかり

 キミの声
 キミの笑顔
 キミのぬくもり

 おぼろげに夢に出てきてオレを苦しめるのに、思い出したい時には思い出せない

 あの時、一瞬…ほんの一瞬、キミから目を離した罰?

 もし…そうなら、オレは甘んじてその罰を受けるよ

 それでキミが帰ってくるなら――



 キミがいなくなったのは、寒い寒い冬の日の午後だった。灰色の重たい雲が空を埋め尽くしていた。


「よし、最終確認、終了!!」

 今は夕刻。
 下校中の学生や帰社を急ぐ会社員、そして夕方の買い物に出る主婦などそれぞれのエリアが様々な理由で混雑していた。

 そんな中、メノスの襲撃があった。

 今回は通行人の靴の下にバネを付けるという一見かなり地味な…というか、ふざけてるようなものだった。

 だけど、威力は抜群で、歩く度に高く飛び上がり思い通り進めない人たちが混雑の上に混雑を起こした。

「ったく。どこのドクターの履き物かよ」

 バネの着いた靴をマジマジと見つめて継ちゃんが呟いた。

「メノスも変わった作戦してくるよね〜。だけど、意外と効果抜群で驚いたね」
「そりゃ、急に付けられたらびっくりしちゃうよ」

 最終確認も終わった頃には、雲は闇に紛れ、早い夜の訪れを告げていた。

『回りに反応もないし、今日はこれで解散していいみたいよ。お疲れ様〜』

 桃ちゃんからの業務終了の連絡を受けて、オレは○○の方をチラッと見た。

 今日はイエローマンの定休日。

 月二回、定休日を設けているとは言え、メノスだ、実験の護衛だ、新作カレーの試作だと、その休みをゆっくり二人で過ごすことは少なかった。

 オレは隣にいる○○をそーっとつつく。

「ねぇ、○○ちゃん。ちょっと遊んでいかない?」
「え…?いいの?」

(下手なナンパみたいだな…)

 口から出たヘタクソなセリフに苦笑いしながら、隣を見ると、○○は嬉しそうな、でも悩んでいるような複雑な顔をしていた。

 あ、可愛い…

 オレはこめかみにそっとキスをして、囁く。

「今日は休みだから、楽しもう…いろいろと♪」

 言い終わると、耳まで真っ赤にした○○が、パッとこっちを向いた。

 あぁ〜、やっぱり可愛い…

「そういうことは人目に付かないところでしてくれ」
「はぁ〜い♪」

 訝しげな顔をした玲ちゃんに怒られたオレは、○○の手を取った。

「行こうか?○○ちゃん。じゃ〜ね、お疲れさま〜」
「お疲れさまでした」

「ハレンチだ!」だのなんだの言葉を背中に聞きながら、オレたちは歩き出した。


 駅前まで出て、これから何をしようか考えていた時に、高校生らしき若い二人が淡い恋のオーラを出しながら、通り過ぎる。
 手を握りしめるその様子がまだまだ不自然で、付き合い始めだと物語っていた。

「可愛いね」

 その様子を見ていた○○が、オレに声を掛けた。

「なんだか、初々しいね〜♪」
「うん。」

 オレは○○の手をギュッと握りなおした。

 その瞬間、何とも照れくさそうな顔をして足下に視線を落とした。

「こっちも初々しいけどね〜。」

 チョンと頬をつついて、こめかみにキスをした。

「もう!!…人前だよ」

 怒りながらも、照れくさそうにする○○。

 何でこんなに可愛いんだろう……

 オレにとってキミは初めての彼女ではない。いずれ里を継ぐ、その事に縛られて悲しい恋ばかりしていた。心がない恋ばかり。
 キミに出逢うまで、オレはこんな気持ちを知らなかったんだ。

 誰かを愛おしいと思う気持ち。

 キミの仕草一つ一つが甘い媚薬で、オレはすっかり虜になっていた。


 ○○――

 甘くキツく縛られているのはキミじゃなくて、オレ――

 このままずっとオレを絡みとっていて
 キミの甘い魅力で身動きが取れないくらいに


 その願いは今も叶っている
 キミが消えた今も―

 まさかこんな形で叶うとはね


 オレの願いが形を変えたのは、皮肉にもキミを改めて愛おしいと感じたこの後すぐのことだった――
 

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