□夢小説(Blue blood)
□14.Into the blue
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あれから四日。
私は青山さんと顔を合わせることはなかった。
神谷さんによると、あの日からずっと、青山さんはラボに籠もっているのだという。
あの日の青山さんは確かにおかしかった。青山さんとは違う誰かのようだった。
私の脳裏にはある可能性がよぎっていた。
それは嬉しくない可能性。
知りたいことはたった一つ。
私は図書室へと向かった。そして、探す――吸血鬼に関する書籍を。
「…………」
私は一人、部屋で座り込んでいた。
いくつかの書籍の中で、こんな一文を見つけた。
『生前の妻を犯し、子供を産ませることがある』
そして、インターネットでも探してみた。結果は同じだった。
吸血鬼化――
そう考えるといろいろと説明が付いた。
あの日、青山さんが私を襲ったことも、ジュテームがいとも簡単に引き下がったことも。
チャームを易々と解かせた訳。
ジュテームはこうなることがわかっていたから、呆気なく引き下がったのだろう。
気づかなかった自分に悔しさが募った。
どの書籍にも吸血鬼化を防ぐ方法は載っていなかった。
こんな非科学的な発想、青山さんが見たら笑うだろうな。
それでも私は借りてきた本を必死になって読んでいた。
夜遅くに、不意にノックをする音が聞こえた。その後に聞こえる愛しい人の声。
「青山だ。少し話がある。」
読みかけの本を机にしまい込み、私は部屋のドアを開けた。
「夜分にすまない。○○に話しておきたいことがある。」
「はい…」
四日間、籠もりっきりだった青山さんはヒドく憔悴しているように見えた。
心なしか、顔色が青白い。
「………」
「………」
「い…今、飲み物を持ってきますね。」
張り詰めた空気に耐えられなくなり、私は席を立つ。
しかし、それは青山さんの言葉によって遮られた。
「いや、いい。○○、そこに座ってくれ。…今から言うことを受け止めてほしい。決して取り乱さないように。…いいな?」
嫌な予感が膨らんでいく。
青山さんは今から私が取り乱しそうな話をするんだ。前置きが余計に私の不安をかきたてた。
「俺の体は確実に変調を来している。今は理性が勝っていて抑えられているが、そのうちにコントロールできなくなるだろう。」
「………」
「君も既に気付いているんじゃないのか?」
「………」
「…俺は近い将来、吸血鬼と化していくだろう。」
やっぱり…
私の予想していた答えたが当たるという皮肉な結果となってしまった。
「こんな非科学的な生物を認めるわけにはいかないのだが、変調を来しているのは確かな事実なんだ。そこで――」
そういうと青山さんは内ポケットへ手を忍ばせて何かを取り出し、私の手に持たせた。
小さいながらにズシリと重く、青山さんのぬくもりが宿ったそれは――銀の弾丸だった。
「○○、ピンクガンは形成できるな?」
「はい…」
瞳をさまよわせ躊躇している青山さんの視線が止まり、決意を帯びた色に変わる。
そしてゆっくりと私を見据えた。
「○○、君に頼みがある。………俺が君に、あるいは他の誰かに、牙をむいたら、その時は迷わず、その弾丸で……俺の心臓を撃ち抜いてくれ。」
「え……」
「不死身の吸血鬼も銀の弾丸で心臓を撃ち抜かれると…死ぬそうだ。」
「あっ…あっ…」
感情を抑えながら話す青山さんは胸の真ん中を叩く。
「ここを狙うんだ。」
「い、いや…、いやです…できません……」
「狙うんだ――」
「いや…、いや……」
わからない…
聞きたくない…
耳を塞ぎ、ふるふると首を振る私の手を取り、青山さんは話を続けた。
「聞いてくれ、○○。俺は最後の最後までハートブルーでいたい。俺が守りたかったものを壊してしまう前に、…君の手で俺を、葬ってくれ。」
「…やっ。い、やぁ……」
「聞け。君は正義のヒーローだろ。職務を全うするんだ。」
「やぁ…、ぁぁ……。」
「ハートブルーになった時から死は覚悟している。…君の手にかかって死ぬのなら俺は――本望だ。」
愛する人を撃たなければならない…。
この手で止めなければならない…。
私の嗚咽が響く部屋に二人はいた。
泣き崩れる私を抱きしめることなく、青山さんはただそこにいた――