□夢小説(Blue blood)
□19.Cry blue murder
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私は今、一人で佇んでいる。
闇夜に浮かぶ月明かりを背に受けながら。
砂漠の中にあるオアシスのように、都会の中にある公園。
真夜中のそれは昼間の賑やかさもなく、ただひっそりとそこにあった。
シューーン……
遠くに聞こえる車の音。もう幾台も走り抜けている。
私はただ前を見据えて待っていた。
あなたと引き換えになるために――
『千鳥さん――行かせてください』
何も迷うことはなかった。行かなくちゃいけないと思った。
操作パネルに軽く腰を掛けた千鳥さんは、私の言葉を聞いてしばらく黙り込んだ。
『○○一人で行かせられるわけないだろ!!』
少しだけあった静かな時を破ったのは、赤木さんだった。
肩をガシッと掴まれ、今までに見たことがないような真剣な顔で話し出す。
『お前がメノスに連れて行かれるんだぞ!!それに玲士を返してくれる保証もないんだぞ!!』
『…わかってます。けど、行かなければ青山さんは確実に犯罪者になります…私に選択肢はないんです』
怯まない。
何を言われようと引き下がらない。
しばらく黙っていた千鳥さんがようやく口を開いた。
『○○さん…僕が止めても行くんだよね?』
『……』
『じゃあ、僕がどんな答えを出そうと関係ないんじゃないのかな?』
私の決意を感じ取っていた千鳥さんは柔らかい笑顔の後、頭をポンポンと撫で、困った笑顔を作りながら、頷いた。
――月は雲に隠されることなく、真っ直ぐに月明かりを注いでいる。
私は目を閉じて、静かにその時を待った。
闇は更に深くなり、遠くに聞こえた喧騒もいつの間にかなくなった。
無音の時がしばらく続くと、私の耳は聞こえないはずの砂嵐の囁きを捉え、耳元で流れ始めた。
サーっと言う音と共に感じる焦燥感にひどく胸がざわついた。
それを払いのけるように、私は強く思う。
私があなたを助ける。
否応なしに高まってくる緊張感に首から下げている弾丸をぐっと握りしめた。すると、指輪とコツンと当たり、私はさらに強く握りしめ、ふっと息を吐いた。
幸せと悲しみの象徴が今、手の中にあった。
不意にざわめく木々。
吹き抜ける風が強くなった。
世界中でたった一人、そこに佇んでいるような、そんな錯覚に陥っていた先程とは違い、今は気配を感じた。
来る――
背中越しに感じる気配に神経を集中させ、私はゆっくりと振り返った。
「……ジュテーム―――ッ」
そこには月を背負い、優雅に微笑むジュテームがいた。
「逢いたかったですよ。マドモアゼル」
ジュテームは凍りつくほど美しい氷の笑みを浮かべ、私を見ていた。
「…逢いたくなんてなかった」
「おやおや、また照れ隠しですか?女性は素直な方が愛くるしいですよ。最も、マドモアゼルに限ってはどんな貴女でも可愛いですが」
そっと近付いてくるジュテームから一定の距離を取るため、私は少しずつ後ずさった。
「さあ、私の胸に飛び込みなさい」
マントをファサっと広げながら、ジュテームは両手を広げる。
場違いな笑みを更に深めながら、ジュテームは私に近づいた。
私はそんなことをしに来たんじゃない。
「青山さんを返して。青山さんはどこ?」
その言葉に、ジュテームは深くため息を付いた。
「私とマドモアゼルの甘美なる愛の時間に、青虫の名前は聞きたくありませんでしたね」
ジュテームの表情がスッと消えた刹那、私は背後に更に気を感じた。
しまった――
私は不覚にも挟まれてしまったようだった。
警戒しながら、一歩横にずれ、ジュテームと垂直になるように体を振り、ゆっくりと首を横に顔を向けた。