□夢小説(Blue blood)

□20.青色吐息
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 ……ュンーーーッ!!!!!!!

 放たれた弾丸は真っ直ぐ青山さんへ向かう。

「あああぁぁ…ぁ……」

 私の体は支えを失ったように崩れ落ちた。

 下りた肩の荷と引き換えに、私がこの先背負う十字架。

 あの温もりも
 あの囁きも
 あの……

 これですべて消える。
 これですべて終わる。
 何もかもすべて……

 この手でピリオドを打った。

 ガタガタと震える手を、もう片方の手で抑え、気持ちを落ち着ける。

 深く息を吐き、頭をクリアにする。

 立ち上がるために、ぐっと手に力を込め、地面に付いた。

 その時――

「――マズい!!!」

 ブラックの声がした。

「顔を上げろ!!!!」

 その声に反応し顔を上げると、そこには、
 ……傷一つない青山さんが立っていた。

「そんな腕前で私を貫けるとでも思ったのか?」

 冷ややかに見下げられたその目に捉えられ、言葉がでなかった。

「ぁ、あ………」

 辛うじて発した意味のない言葉を口にしながら、私は少しずつ後ずさった。

「喰らえ!!青山!!」

 駆けつけるブラックに青山さんは容赦なく攻撃した。

「ぐわっっ!!!!」
「止めて、青山さん!!!」
「ジュテームウィップ!!」

 追い打ちを掛けるようにジュテームのムチが唸る。

「がぁはっ!!!」
「ブラック!!止めて!!もう止めてーー!!」

 痛みのあまりにのたうち回るブラックを庇いながら、私は叫んだ。

「君は私に懇願する立場にない」

 突き放すように言う青山さんに、背筋が凍る。

 身も心もすっかり変わってしまったことを実感した。

 少し間合いを取り、青山さんと対峙する。

「私とやり合うつもりか――いいだろう」

 タンッ!!!!!

 軽やかな音と共にふわりと空に飛び上がる。

 シュンッ!!!!

 次にその動作とはかけ離れた素早いキックが降ってきた。

「う…っぐ―!!!」

 顔の前でクロスをした腕で、その蹴りを受け止める。

「んんんーーッ!!!」

 けれど、その力は強く私の体は後ろへ反らされた。

 そのタイミングを見逃さず、青山さんは力を引いた。

 するとバランスを失って、前のめりに倒れ込む私の背中を拳で叩き下ろした。

「うっ!!あぁぁ………」

 痛みの余りにうずくまる私の頭を掴み、上を向かせた。

「力の差は歴然だ。同じ目に遭いたくなければ、従うんだな」
「…イ、ヤです……」
「何――」
「イヤです!何もしないでこのままでいるのは!!私も最後の最後までハートピンクでいたい!私は正義のヒーローです!職務を全うするんです!!」

 もう弾丸はない。
 あなたを仕留めることができない。

 だけど…私はあなたを止めなくちゃいけない。

 それがあなたとの約束だから。

 私はボロボロになりながらも、戦う意志は失わなかった。

「…――うっ…それは――」
「青山さん…?」

 強い想いを込めながら放った言葉に、青山さんは苦しそうに眉を寄せた。

 もしかしたら、まだ…
 青山さんの反応を見て、私は淡い期待を込める。

 あなたの心がまだどこかにあるのなら…

 私はマスクを取り、素顔で青山さんを見つめた。

 思い出してほしい――

 あなたの体に刻まれている私との思い出を――
 私を愛してくれた記憶を――

「君、は……」

 先ほどとは少し違う戸惑いを含んだ青山さんの言葉に、まだ全てが闇の中に取り込まれのだと確信した。

「青山さん…私です。○○で…」
「――君は私の妻だ」

 その時、妖しい瞳の奥に意志を持った違う光が宿った。

「やっ……!!」

 真っ直ぐに私を見つめる視線が捕食の色を持ち、私の両腕を捕まえた。

「青虫!!やめなさい!!私のマドモアゼルから離れなさい!!」

 初めてジュテームから聞いた焦りを含んだ言葉に、今、ジュテームの呪縛から解かれたのだとわかった。

「黙れ、ジュテーム。彼女は私の妻だ」

 鋭く返した瞳がジュテームから私に移された刹那、青山さんは宝石のように煌めいた瞳に欲を移し、透明がかったエナメル質を濡らしながら、その牙を露わにした。

 ジュル――…

 卑猥に発する音に身じろぎしながら、私は最後の抵抗を試みた。

「やめて…青山さん……」
「私にその愛液を捧げ、永遠の愛を誓え――」
「いやぁぁぁぁぁ―――!!!」

 ぐわっと剥き出しになった牙は、私の首筋目掛けて突き下りてくる。

 今から迎える悦楽に、際限の喜びを感じているのか――

 あなたの体にまだ、一分の心が残っているかもしれないと掛けた私を蔑(さげす)むかのように、青山さんは薄く笑っていた。
 

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