Novel
□手
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亜久津と南はぼんやりと部屋の中にいた。
窓の外は今にも泣き出しそうな空で、とても出かけようという気にはならなかった。
ふたりが特に話しをしないので部屋の中には沈黙が横たわっていた。
ふいに南が口を開く。
「亜久津の手、」
南の視線は亜久津の手に注がれている。亜久津はその三白眼を南に向けはしたが、何も言わない。
「好きだな」
南は呟き、淡く笑った。亜久津はやはりそれをただ見ていた。
「…触っていいか?」
「勝手にしろ」
南に問われて亜久津はようやく口を開き、その手を差し出した。
差し出されたそれに南はそっと自分の手を重ねた。
しばらくの間、南は亜久津の手を指で押したり、撫でたりした。
亜久津は何も言わずその行為を見ていた。
再び沈黙がふたりに訪れる。
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