Novel

□うらら
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公園のベンチで橘と森は並んで座っていた。
春の日は暖かく降り注ぎ、2人を白く照らしつける。

「…森」

橘の声に森が俯いていた視線を橘に向けた。

「はい、」

森は緊張した声で答える。
2人の目がしっかり合った。
しかし森はすぐにその目を逸らしてしまう。

「…いい天気だな」

橘の言葉に森の動きが一瞬、止まる。

「…はぁ」

やや戸惑いながら森は答える。
橘は空を見上げた。
つられて森も空を見上げる。

「本当にいい天気だ」

空には軽そうな雲が浮かんでいる。

「そうですね」

降り注ぐ日差しに森は目を細める。

「森、」

もう一度、橘が森を呼んだ。
今度は2人とも空を見上げたままだった。

「…好きだ」

「…え?」

呟かれた橘の言葉に森は思わず聞き返し、橘を見た。
橘も笑みながら森に視線を下ろした。
2人の目が再びしっかり合う。
しばしの沈黙の後、森は頬を赤らめながら少し笑った。
もう目を逸らすことは無かった。

春の日はうららかに過ぎてゆく。


fin.

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