Novel

□醜いもの
1ページ/2ページ

部室に入ると森が1人、長椅子に座っていた。
他の部員はもうすでに帰った様子で荷物も無い。
「森、」
近付いて声をかける。
しかし俯いている森は答えず、そのかわりに規則正しい寝息が聞こえた。
どうやら寝ているらしい。
そんな森に微笑を零しつつ、隣りに腰掛ける。
「…森」
名前を呼んでみるが答えは無い。
しばらく森を見つめてから、もう一度呼んでみる。
「…辰徳」
初めて呼んだ名前に甘い痺れを感じる。
しかしやはり答えは無い。
苦笑を漏らして、着替えをするために立ち上がった。
「…ん、」
森の小さな声に立ち止まる。
振り返ると森は俯いたまま、また消え入るようにぽつり、と言葉を落とした。
「…きょぅ、ちゃん」
一瞬、脳裏に森のダブルスパートナーの小柄な少年の姿が浮かんで、消えた。
否、消したのだ。
大切な後輩を、仲間を消したいと思ったのだ。
なんて、醜い感情。
「……」
再び、森の隣りに溜め息と共に腰を落とす。
すると隣りの森が身動ぐ気配がする。
「…起きたのか?」
問い掛けながら隣りを見る。
森は重そうな瞼で瞬きを繰り返して現状を把握しているらしかった。
「…え、ここ…?」
「部室だ」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ