Novel
□いとし
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「京ちゃん」
柔らかい笑顔
俺はその笑顔が嫌いじゃ、なかった
「京ちゃん、京ちゃん」
あいつは昔から犬ころみたいに俺にくっついてきた
「京ちゃん、あのね」
今日起きた事をだいたい何でも俺に話すのも昔から
「京ちゃん」
中学に入ってからもあいつはそう呼んだ
恥ずかしいから止めろ、と言ってもやめなかった
「京ちゃん、今日ね」
テニス部に入って、最悪の毎日の中でもあいつは無理して笑った
俺はその笑顔が大嫌いだった
でも俺は、それを引っ込めさせる事が出来なかった
「京ちゃん、橘さんが」
いつからだろう
あいつの話す事の半数があの人の話になったのは
あの人が最悪な毎日を打ち破った頃だったか
あの人が新しいテニス部を作った頃だったか
覚えていない
ただあの人の話をするあいつはあの柔らかい笑顔を浮かべた
嫌いじゃない、笑顔なのに
息が詰まるのを感じた