Novel

□いとし
1ページ/2ページ

「京ちゃん」
柔らかい笑顔
俺はその笑顔が嫌いじゃ、なかった

「京ちゃん、京ちゃん」
あいつは昔から犬ころみたいに俺にくっついてきた

「京ちゃん、あのね」
今日起きた事をだいたい何でも俺に話すのも昔から

「京ちゃん」
中学に入ってからもあいつはそう呼んだ
恥ずかしいから止めろ、と言ってもやめなかった

「京ちゃん、今日ね」
テニス部に入って、最悪の毎日の中でもあいつは無理して笑った
俺はその笑顔が大嫌いだった
でも俺は、それを引っ込めさせる事が出来なかった

「京ちゃん、橘さんが」
いつからだろう
あいつの話す事の半数があの人の話になったのは

あの人が最悪な毎日を打ち破った頃だったか

あの人が新しいテニス部を作った頃だったか

覚えていない
ただあの人の話をするあいつはあの柔らかい笑顔を浮かべた
嫌いじゃない、笑顔なのに
息が詰まるのを感じた
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ