彩雲国物語〜極彩色な国で〜

□覚悟
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「お嬢様、お風呂の支度が出来ております」
静蘭の声にふと我に帰るとすでに夜の帳(とばり)が降りていた。

「あらやだ、もうこんな時間。私急いでお夕飯作るから、後で入るわね、静蘭」
家計簿を慌てて閉じてすぐに厨房に向かいかけた秀麗はなんの気なしに静蘭にそう返した。

「……お嬢様、絳攸様は今晩も帰宅が遅いんでしょう?」
秀麗は静蘭が何を言わんとしてるのか察した。 

「だから何?御飯作ることないって?」
秀麗は足をとめ静蘭に向き直る。

「いいえ、そうじゃありません。むしろ絳攸様はお嬢様の御飯を喜んで召し上がると思います」
秀麗の料理は誰もが認める腕前だ。不味いはずがない。
 李絳攸は結婚前から秀麗の料理を喜んで食べていただけに静蘭は本心からそう思う。

だが、 
「急いで今料理されずともよろしいのではないですか?」
李絳攸は将来を嘱望(しょくぼう)される若手文官随一の出世頭ゆえに多忙な男だった。

結婚した日の翌日にはもう出仕、連日連夜朝早くから夜遅くまで職場に釘づけとなっているようだった。
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