花宵ロマネスク〜面影思ふ宵闇〜

□御褒美
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「先生。」

 放課後薄暗がりのコピー室で授業の準備をしていると綾芽くんがいつの間にか私の背後にいた。
「あ、綾芽くん?!驚かせないでよ。どうしたの?」
「言っただろ?後で貰いに行くって」
…あ。さっきの。しまった。まだ準備できてないよ。
「だからわざわざ来てやったんだけど、何?まさか」
「ごめんね。もう少し待ってて」

 慌てふためくアンタってホントからかい甲斐あって可愛いよ。
 準備まだなはずだよな?知ってるよ。だって準備できてたらオレが困るんだよ、先生。オレにとっての御褒美だろう、だったら俺が欲しいものがイイに決まってる。

「オレが欲しいものなんて数えるほどしかない。さっきも言ったけど、今寄越せよ」
「え。私のあげたいものじゃダメなの?」
―あげたいもの?
「…何?」
途端にキョロキョロしてドアに内鍵をした。
「綾芽くん。頑張ったね」目の前に立ちオレの頭を撫でる。

…いい年してまさかこう来るとはな。
「お前馬鹿?」
「…昔、頑張ったらこーして貰って嬉しかったんだけどな。やっぱり駄目かぁ」

「…いや、取りあえずはいいよ」
 誰かに頭撫でられることなんてなかった。後継者だから優等生で当たり前。褒められるなんてなかった。
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