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01/22(Wed) 01:08
自分。<15>
水刻 狼旋

「なんで。」
それは、少年の声だった。
「私を産んだの?」
それは、少女の声だった。
「何故。」
それは、女性の声だった。
「俺は生きている?」
それは、男性の声だった。
「どうして。」
それは、老翁の声だった。
「私は、殺されるの?」
それは、老婆の声だった。

三人の中に流れ込んだ負の感情。
悲しみ。怒り。恨み。諦め。苦痛。怖い。寂しい。
まるで人間のような形で流れ込んでくる。
それでいて、人間ではないことがはっきりとわかる。
それの、『キリスト』の心はこんなにも純粋で。だからこそ、疑問を持った。
「どうして、私は産まれたの?」
それは少年の姿を見せる。
「なんで、アラガミを殺さなければならない?」
それは女の姿を見せる。
「何故、私は自分のために生きてはいけない?」
それは、老婆の姿を見せる。
「なんで、俺は『処分』される?」
それは、男の姿を見せる。

アラガミを駆逐するために作られた、全知全能のアラガミ。
計画は、完璧だった。できたものも、完璧だった。
完璧すぎるがゆえに、心を持ってしまった。

「俺は。」「私は。」


―生きたい―


それがキリストの本能。
この世に生を受けたものが持つ、当然の本能だった。
だが。
「それでも、人を傷つけていい理由にはならない」
きっぱりと言い切ったのはリアンだった。
正確には、言い切ったように感じただけなのだが。
「あなた、心があるんでしょう?どうして、悪夢を見せて人を苦しめるような真似をするの?それじゃあ・・・」
まるでキリストを作った人々と同じだ。そう言いかけて、突然リアンは口もとに手を当てる。
ほぼ同時に、レイジがその場に―感応の世界で、なので実際は違うのだが―がくりと膝をつく。
「大丈夫か、二人とも」そう言おうとして、自分も、狼旋も周囲の空気の変化に気づく。
感応による、あの暖かな空気ではない。冷たく、尖った、刺すような空気。それはまるで空気がアラガミと化し、全身を侵食されているかのような苦痛だった。

「復讐」

ふくしゅう。フクシュウ。復讐。
だれに?誰に?何に?ナニニ?

「人間に」

ニンゲンニ。人間に。じぶんを、私を、俺を。作った人々に。

「同じ苦しみを、味あわせる」

彼は泣いていた。

産まれたくて産まれたのではないのだ。
愚かな人間は神に見捨てられ、神に喰われ、天罰を受けた。
それでもまだ、愚かな行いをやめようとしなかった。その報い。
産んではならないものを産んでしまった、その報復。

なら、自分たちにできることは一つだ。
「俺たちがその心、解き放ってやる」

感応現象は収まった。
目の前にいるのは少年でも女性でも老翁でもなく、一体の『神』。
「さてと」
レイジが神機を構えなおす。
「愚かな人間の愚かな償い、やってやりますか」
「ああ。アイツを、キリストを、解放してやるんだ」
再び、死闘が始まる。
PC

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