天泣の調べ

□動ずる前に閑話休題
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目が開けられない程の風が収まったかと思えば、よく知った匂いが鼻腔をくすぐり自分を包み込んでいる事に気付き目をゆっくりと開けば赤いマントに銀色の髪が視界に入ってきた。
「やっと起きたかい?リンク。お寝坊さんだねえ」
「ギ、ラヒム?…あれ、僕空に居たよね?」
瞬きを幾度か繰り返し、ぼやけていた感覚を取り戻す。そして今の状況を把握すれば。
「何で、僕…ギラヒムに抱きかかえられているの?」
「私の魔力で連れ戻したからだよ。不満だったかい?」
「全然ー!!むしろ嬉しい。ギラヒムに抱かれてると安心するし」
リンクの言葉に珍しく目を大きく開き驚いたような表情を浮かべたかと思いきや一瞬で妖艶な雰囲気に変わるギラヒム。
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。そう言われると襲いたくなるよ、リンク」
「ギラヒムのえっちぃ」
リンクを片手で抱えたまま空いている、もう一方の手で指を鳴らしリンクが住んでいるフィローネの森中心部にある巨大樹に作った部屋に移動する。暫くして疲れが出たのか夢の中へと眠ってしまったリンクの頭を撫でつつ、月明かりに照らされながら静かに存在するファイへと視線を変えずに話しかけるギラヒム。
「…勇者を、リンクを放そうとしなかっただろ?女神は」
【それは、ゼルダ様個人の感情です。しかし…貴方が来なければ《危なかった》っと言うべきなのでしょうか…】
リンクと共に女神をゼルダに接触したファイの言葉はギラヒムにとって意外だった。
「《危なかった》ねぇ…。君からの目線でそう感じたって事は《異常》だったって事かな」
やれやれっとワザとらしく肩をすくめるギラヒムに否定の言葉が出ない。
女神によって作られた自分が、このような感情を抱いても良いのかと思考を巡らせた時。
「…2人ひょも、うるしゃい。一緒に寝にゃいの?」
半分寝ぼけているのか、所々舌足らずの発音が混じりながらも眠らない事に不満が滲み出ている顔をするリンクの声に、今まで考えていた事が霧散し笑みが零れる。
眠り姫のご機嫌をこれ以上下げないようにベットへと潜り込む事にした2人
リンクを中心としてギラヒムは壁側にファイは入り口側で横になる。
剣の精霊達の間で眠る形をなったリンクは満足そうに笑うと、再び夢の中へと眠りに就く。
「睡眠を邪魔するとリンクが怒る事をすっかり忘れていたよ。」
【今はマスターに従います。今後の話はマスターが起きてからですね。】
これ以上煩くすれば二度と口を聞いてもらえなくなる事を恐れ、リンクの寝息を聞きながら朝が来るのを待った。
幸いな事に夜中の事を一切覚えていなかったリンクに胸をなでおろした精霊達である。

「それじゃ、ワタシは巫女を大地に落とす準備に取り掛かるけど…リンクは
どうするんだい?」
「んーと、僕はトライフォースを見つけに行く。魔王様が復活した時に有ると良いかなって思うし。」
確かに魔王様が復活した所にトライフォースが有れば喜ばれるだろう。何よりも大地を魔族の世界に即取り掛かれる。
「流石だね、リンク」
柔らかく笑みを浮かべ、リンクの頭を撫でる。リンクは「えへへー」っと頬を赤く染めながらも大地で行動するのだから魔剣を貸して欲しいと頼むと、パッチンと音を立て黒い剣を渡す。
「ギラヒムから剣も借りた事だし、行こうファイ」
背負っているマスターソードに話しかければ、何処に行くべきかの道標を教えて貰い行こうと歩き出した時だった。何かを思い出しギラヒムの元にやって来たリンク。
「…行くんじゃなかったのかい?」
「ギラヒム充電してからー」
彼の胸元に顔を埋め手を回し抱きつき《充電》をするリンクに出発早々理性と戦う羽目となったギラヒムであった。




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