背や追えや鬼呻く

□奇
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聖邪の子は鬼に捕まってはいけない。
子供は鬼に捕まってはいけない。
親は子供を守らなけれならない。
鬼は聖邪の子を無傷で捕まえること。
子供は聖邪の子を助けても、
見捨てても構わない。
アイテムの使用禁止。
子供だけの魔法使用禁止。
聖邪の子は捕まったら2度と戻れない。
子供は捕まったら(髑髏マーク)。
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 魔によって統一された世界を眺めるのは地獄の獄卒。餌に噛み付かれ傷を負った腕を擦りながら、獲物を選んでいた。
 噂で聞いた存在を探す。上辺だけの不可侵条約を結ぶ魔族の中、閻魔と肩を並べる圧倒的存在である終焉の者が育てる子は、彼の右腕たる魔剣の伴侶であり聖三角を宿す…地獄では「聖邪の子」と呼ばれる子供を。浄瑠璃の鏡の前で立つ黒鬼を怪訝そうな表情を隠さず容赦無く背後からローキックで蹴る大人びた少年。
「痛いなぁ酷いよ、誰だい?先生が探し物をしている最中、蹴るような獄卒的模範生君は。」
「ただえさえ気持ち悪い癖に鏡の前に何時までも立ってる方が悪い。ナルシストかよ。」
「失礼な。鏡は鏡でも美しさを問う物では無く人の世を写す鏡を見てるの!」
 可愛らしく怒る獄卒の青年を心底気持ち悪い物を見る様な眼差しを辞めない少年章吾に対し溜息を付きながら体をずらし彼にも鏡が見えるよう動く。
「これは浄瑠璃の鏡。模範生章吾君には説明は要らないね?この鏡で探してるんだよ。」
「探しもんがコレで見つかるか?」
「浄瑠璃の鏡で無ければ見付からない。先生の探し物は地獄にも人間界でも無く魔界…魔王が統べる魔族の国に居る。」
「頭ん中ファンタジーとか、本当に救いようが無いな。」
 章吾の毒舌に口だけは怒るが余程探しているのか目は歪んだ笑みを浮かべたまま鏡を見つめる。魔界と言われドン引きをしたが、映し出される土地は活火山のように燃え盛る山や無慈悲なる砂漠が広がる光景にとても住人が住める環境下では無く本当に居るのかと疑いが生まれる頃、森の中に人が居た。童話にそのまま現れそうな蒼き精霊らしき存在と、まるで御伽噺でしか描かれないエルフに似た姿をした青年の美しさに驚く。声を漏らして仕舞いそうな衝動を抑え隣に立つ青年・杉下という名で人間に成り済ます地獄の獄卒…黒鬼を横目で見るも彼は未だ見付けられずに鏡を見つめたままだった。
同じ画面を見ているのでは無いかと
「今、森の中が映ってるんだよな?」
「そうだよ。魔界の中で唯一残された領域でね、この辺りに居るっていう噂があるんだけど…おっかしいな。」
 探り入れればビンゴ。ありがちな話で、一定条件を満たす者だけが認識出来るのは、正にありふれた設定だと鼻で笑う。
 しかし2つの存在に引っかかる。何処かで以前から知っているような既視感に苛まれる。
「……金髪と蒼いの、どっちが正解だ?」
「…へぇ章吾なら「視える」んだね。道理で見付からない訳だよ、全く。」
「よくある話だろ、レーカンが有るとか大人には見えないとか。」
「大方。人間には視えて、獄卒には視え無いように術式が組まれてるんだろうね。えっと先生の捜し物は、金の髪に蒼い目と紅い目のオッドアイをしている美少年。名前は確かー…リンク君。」
「…はぁ?マジで言ってんの?ふざけてんじゃねぇぞ。」
「むしろ逆ギレされた理由が先生よく分からないんだけど!」
 鏡に頭をぶつけ怒る章吾に心底分からないと、しゃがみ込む黒鬼を見るのも嫌だと言わんばかりに愚痴が零れてもしょうがないと章吾は頭を抱えた。
 相手は獄卒。人間の子供達が遊ぶゲームなど知らないであろう。ましてや星の数のように増え続けるゲームの内容等分かるはずも無い。知っていたら、ソレはそれで駄目な気もするが人間のゲームを楽しめる脳を持っていると新発見出来るのでは無いかと、無駄に思考を働かせてしまったが。
「そっくりなんだよ。オレ達が持っていたゲームの主人公と、その仲間に。」
 鏡に指紋が付く事もお構い無しに彼が映る箇所を指差し、章吾達の年齢層が遊ぶテレビゲームの1つに彼そっくりな主人公が攫われた幼なじみを救うべく勇者となり戦い、敵である魔王を倒すストーリーなのだか。
「勇者が魔族ってどうなってんだよ!パラレルワールド過ぎんだろ!」
 叫ばずには居られない。
「鬼だけど流石にメタ発言は良くないと思うなぁ。」
「…チッ。それで、コイツで間違いないのか?」
「うん、彼で間違いない。」
 章吾が指差す箇所を見つめ漸く姿を目視出来た黒鬼は、その笑みで正解であると証明し鏡に映る青年の周囲をなぞるように触れる。魔族が獄卒に見付からないように壁を施しても、まさか人間の身を半分捨て獄卒を継承する子供が居るとは予測していないだろう。黒鬼の思い付きは誰も止められない。
「さぁて、聖邪の子を迎えに行こうじゃないか。引退後の楽しみを手に入れないといけないし、君にも魔族がどんなのか教えないとね。」
「…全治100年受けても知らねぇぞ。」
 何それ?と首を傾げる黒鬼に対し、鏡の向こうに映る彼とは面識は無いが一方的に知っている身としては流石に気が進まない。だから、表向きは黒鬼の作戦に参加し隙を見て彼が逃げやすいよう工作をせねばと思考を巡らせる。真っ先に取り上げられる聖剣を如何にして返してやる前に、ほんの少しだけ触らせてくれないか頼もうと。子供心を諭されないよう、彼は動き出す。

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 桜ヶ島の森が茂る神社にて少年・大翔は幼なじみの悠と葵と共に円を組み顔を突き合わせていた。3人の視線が向ける矛先は地面に横たわる美しい青年。どう見ても、この桜ヶ島の住人に翠の着物を纏った青年…しかも耳が御伽噺に登場するエルフのような形をしており、何よりも。
「なぁ、どう見たってリンクだよな。」
「うん。ゼル伝のリンクだよ。服装は全く違うだけで画像通り…。」
「ゲームの登場人物にそっくりだからって貴方達、流石に失礼よ。」
 水晶のような物で作られた硝子細工の花飾りを付け草叢に横たわる姿は、これから冒険の1つでも始まりそうな程に幻想なる風景を生み出している。大翔と悠が青年をゲームの主人公だと決め付けたのには外見だけでは無く、彼の傍に落ちていた2つの剣らしき物が有ったからだ。
 2人が言うには蒼い剣が聖剣・マスターソード、赤黒い剣は魔剣にそっくりとの事で。お陰で興奮が冷めやらぬらしい。
 葵がいい加減起こそうと声を掛けると同時に大翔がマスターソードに触れようとした時。
【…周囲に敵影、脅威無しと判断。この地の子供と仮定し、マスターに触れる事を禁じます。】
「け、剣から人が出たぁ!?」
「やっぱりマスターソードじゃないかぁ!ファイさん出てきたし!」
「…アナタは?」
 青年の傍に横たわる蒼い剣から突如姿を現し、宙に浮かぶ存在を警戒する葵。未知の存在は今まで体験させられた恐怖を警戒しての行動に対して、気に求めていないのか表情を変えず問いに応えた。
【ファイはマスター…貴方達の足元で寝ている者・リンクに仕える下僕。貴方達に問います。何故、ファイやマスターを存じているのか説明を要求します。】
 彼女からは敵意は一切感じられず、ただ主を気遣う様子に3人は目を合わせ逡巡した後に大翔が代表して応える。
 自分達は桜ヶ島に住まう小学生で、自分達が持っている携帯ゲームの主人公が画面向こうから飛び出して来た位にそっくり…と言うよりも本人では無いかと警戒していた所だと。玩具にしては精巧な作りをしているのに纏う衣服が全く違うので困惑していたと、辿々しく言葉に変え伝える大翔。彼の言葉と証拠として提示された板に写る絵は確かに自分達であると確認が取れ、ファイは謝罪する。
【状況把握。ヒロト、ユウ、アオイ。貴方達はマスターを助けようとして下さったのですね。】
「おぉう、そうです。ハイ。」
「って事はやっぱり?」
【イエス。その情報は、ほぼ間違い無い物です。】
 ファイの断言に歓喜極まって声を上げる男子に耳を抑えつつも葵は改めて青年を起こそうと体を揺らす。不規則な揺れと彼女の呼び掛けに閉ざしていた瞳を開け己を囲む子供達を視界に写すと、碧色の透き通った眼を見開き体を起き上がらせファイに状況説明を聞く。話を聞けば聞くほど…
【何故、この桜ヶ島と呼ばれる島に寝かされて居たのか原因不明です。我々は確かに森に居たのですから…】
「えっと、君達が僕等を見付けてくれたのかな?」
「おう!なぁ、アンタってやっぱりリンクで間違いんだよな?」
「女神ハイリアに仕える勇者リンクと聖剣マスターソードですよね!」
「…僕は確かにリンクでファイも聖剣で間違いないけど、どうして僕達の事を知っているの?」
「信じられないと思いますが、私達は貴方達をフィクション…物語として知っています。」
 自分達が知るゲームの物語だという事は流石に言いづらいので伏せた状態で話し彼等しか知らないであろう出来事を伝えれば、納得したのか2人共に警戒心を解くがリンクは物語の一部を否定した。
「申し訳無いんだけど、君達が知ってるお話とは違う点が有る。僕は…」

 勇者として歩まず魔族として育てられ、魔王の封印を解くために女神を封じたのだから。

 冷ややかに、何処か申し訳なさそうな笑みを向ける彼へ掛ける言葉を失い息を呑む悠と目線を巡らせる葵。大翔は震え手を握り締め彼は
「スゲー!それって聖剣も持てて魔剣も使えるんだろ、カッコイイじゃねぇか。何で、そのルートが無いんだろうな。聖剣も魔剣も使える勇者なんて最強で最高じゃん。」
 感激していた。ズレた感想を抱き今ソレを暴露する大翔に悠はずっこけ、葵が抗議の叩きを決める。予想外の反応に追い付かずリンクは胸を抱くように大きく笑い声を上げ、冷たい刃先を向けているかのような雰囲気を捨て柔らかな表情に変わっていた。
「そうだよね、魔剣も聖剣も最強で最高だよね!どっちも僕にとって大切な家族なんだもの。…でも君の好きな勇者は正義の味方じゃ無いけど良いの?」
「別に勇者が正義の味方じゃなくても良くないか?アンチヒーローだっけ…悪の道を進みながら自分の信念って奴を貫く主人公だって居る訳だし。」
「…居るけどさぁ、今ここで言えちゃう大翔が凄いよ。」
「いわゆるパラレルワールド…並列世界のリンクさんって事かしら。もしもの数だけお話は有るから、否定する理由も無いわね。」
 並列世界の1つに住まう魔族のリンクを否定しないが大翔の理由は断言否定すると葵はバッサリ切り捨てる。抗議の声を上げるものの対して効果は得られず悠が笑い、言い争いが和やかな談笑へと移り変わる光景を眩しそうに見つめる彼の傍らに降り立つ聖剣にしか聞こえないよう言葉を紡ぐ。
「彼等は眩しいね…豊富な知恵を持ちながら勇敢に自分の意思を貫く力がある。勇者でありながら魔族の僕を否定し無いで受け入れてくれた。こんなにも嬉しいものなんだね…ファイ。」
【イエス、マイマスター。彼等は不思議な存在です。彼等の協力を仰ぎ、元の時間軸へ戻れるよう行動する事を推奨します。】
「…ギラヒムもこっちに来てるのかな?」
【コチラに来るまでの過程が分析不可能で判断しかねますが、コチラに来ている確率80%。その内合流するかと。】
 魔王の右腕と高らかに誇り最強の魔剣であると主張する魔族長が負ける姿を想像し難く、気さくに合流してくるであろうと彼の心配よりも己の身をまず守らねばならない。
 防衛の為には状況把握から。日々を過ごして来た大地とは考えられない程に発展急成長した景色へ背を向け、この桜ヶ島を知る所から始めよう。大翔達から今自分達が居る場所は桜ヶ島神社の神殿から離れた雑木林で今の時期ならばリンクの格好も違和感は無いのだが、着物を纏う金髪の美少年など狭い空間では目立つ。特に長い耳を持つ種族は存在しない世界だと知り亜人は滅んでしまったのかと静かに肩を落とす。悠が持っている薄く銀色に鈍く光る板をリンクとファイに見えやすいよう操作をし、絵を映し出し葵が桜ヶ島の地図を見せ説明する横で大翔がフォローと野次を飛ばす。大事な情報を聞かねば成らないのだが、それにしても
「…緑は有るのにラネールみたいな暑さがあるんだね。日差しが強いのに蒸し暑いとか…大変な所に住んでいるよね。」
「今夏だからリンクにはキツイよな。」
「熱中症になると危ないよ。何処か屋根のある所に入ろう」
「手水舎なら此処より涼しいわ。移動しましょ!」
 常に冷たい水が流れる手洗場を珍しそうに調べるリンクとファイの光景は勇者が起こす必然的行動を同じ目線で見れるなんて今日の朝、玄関から出てきた時には予想もしていなかった。



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