封印された初恋〈カカイル〉

□桜封印された初恋二章
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今年は、里で桜がみたい…

カカシのささやかに願いは、やはり任務に邪魔されて叶うことがなかった。
翌日カカシには、北の国の長期任務が言い渡されて寒い北の地に向うことになったからだ。
長期任務のため今度いつ里に戻ってこれるか分からない。
何時になろうと必ず生きて帰って…
この里の満開の桜をみたい。
カカシは桜の結晶を握り、里を後にした。

任務は相変わらず厳しく殺伐とした毎日が続いた。
血みどろの戦いの日々のなか、カカシの胸ポケットには、
冬の国では咲かないカカシだけの春の花が変わらずに…
…咲かし続いている。

戦いの最中に少しの休息があれば、カカシは飽きることなく桜の結晶を眺め、
少年の笑顔を思い出して心暖めて過ごしていた。
暗部の暗殺人形と恐れられたカカシが、優しい表情でいつも眺めている光景は、仲間の暗部でさえ驚き興味をもち、
年若い隊長の変化を喜んで見守った。

「綺麗な物ですね。
何ですか?、それ。」
「…!」
仲間の中で最も年長者の隊員が結晶を見つめるカカシに話かけた。
夢中で見つめていたカカシが、声に驚き小さな身じろいだ。
近付く気配に気づかないほど、心は桜に捕われて包まれいたからだ…。
カカシは乱暴な忍ではないが、いつも底冷えする殺気を放って人を寄せ付けない迫力を漂わせていた。
だが、この年長の隊員だけは、年若い隊長を気にかけ何かと声をかけてくる。
カカシが答えることは無いが、懲りずに隣りに来ては何気ない話をしていくのだ。

この年長者からしたら、まだ子供のカカシが、心をなくす人形のように殺戮を繰り返しているのが悲しいことに思えて心が痛んだ。
いくら力があるとは言え、この年でこの任務は惨すぎる。
そのうち心が本当に壊れ殺戮兵器のようになってしまうのではと、心配でならなかったからだ。
少しでも年相応の感情を持って欲しいと…いつも考えていた。

「隊長…!
驚かせてしまいましたか?、
すいませんねぇ〜、
それにしても隊長らしくもない!
近付く俺に気づかないなんて…、俺の方が驚きましたよ。」

悪びれのない武骨な顔をゆるめて笑った。

「……・・。」

笑う男にカカシはバツの悪そうにうつむく。

「ハハハハ・・!
カカシ隊長、
最近、なんだか可愛いですね。」

…!…可愛いと言われ、派手に笑われてしまい、
自分らしくない行動に恥ずかしく、ますますうつむいてしまう。
うつむくカカシを見て、
男が優しく声をかけた。
「最近、隊長の雰囲気が柔らかくなったのは、
その綺麗なガラス玉のせいですか?
皆が隊長の可憐な姿に虜になってますよ。
いい顔をされるようになったと、
鋭い顔の隊長も良いですが、年相応の愛らしい隊長の顔はさらに良いものですよ。」

下を向いたまま無言のカカシに男は続けた。

「こんな任務です。
殺伐とした戦いの中、
隊長が夢を見るように可憐に微笑んでいる姿は、
我々の疲れを吹き飛ばしてくれますから。」

恥ずかしい男の言葉に、うつむいたカカシの耳が真っ赤になった。

桜の結晶を見ている自分が、どんな顔をしていたかなんて、考えてもいなかった。
そんなカカシを皆が注目していたことに初めて気付い、
恥ずかしさでいっぱいになる。

初々しく赤くなったカカシの耳に、嬉しそうに男が笑った。

「隊長、恋しい人でも出来ましたか?
隊長の年なら初恋ですか?
その品は、その初恋の君からのプレゼントでしょう。
隊長にもやっと春が来たのかなぁ〜、
羨ましい!
初恋、思い出しますね。良いものです!」

男はカカシにもやっと年頃の誰もが経験する、
淡い恋が訪れたことを、我が子の成長を喜ぶように嬉しくなった。

カカシは勝手に一人で話す男の言葉に衝撃を受けた。

・・恋・?
・・初恋!!・・

でも… 相手は…男の子だったし、
憧れて、思い出すと幸せな気分にもなるけど、
それが恋とは今の今まで思いもしなかった。

手の平にのせた桜の結晶をジッと見つめて微かに肩を震わせる。
恋と言う言葉に、ドキドキと自分の鼓動が高鳴って震えが身体に伝わっていく。
カカシは驚きと沸き上がる高揚感に驚愕して、男の武骨な顔を仰ぎみた。
「っ!あっ!
すいません、隊長を馬鹿にしたりからかったつもりは無いんです。
気分を害したのら許してください。
俺はな、隊長がそれを見ながら優しい綺麗な顔をするのが嬉しいなぁ〜と。
戦火の中で、思いを寄せる相手がいる事は良いことですよ。
恥じる事はない。
隊長、サッサとこの任務終わらせて里に帰りましょうや。

待っているんでしょ、
隊長の彼女が!」

勝手にカカシに彼女が出来たと思い込んで話を進める、
早とちりの男は、カカシの手にしている結晶を間近でのぞき込んで言った。

「あれ!?、ガラス細工かと思ったら、
これ本物の桜が入って……・・!、
これ…・・冬春華恋の術じゃないですか!
今、この術を出来る者は、いないはずなのに…、
どうして隊長が持っているんですか?」

男の言葉は、あの少年の母を知っている口ぶりだった。

「お前! この術者を知っているのか!」

カカシは叫ぶと男の襟を掴んで握りしめた。

カカシの何時になく必死の問い掛けに、
男は困った顔をして優しくカカシの握りしめた手に自分の手を重ね、
子供をあやす優しい仕草でさする。

「・…知っていると言うほど知っているわけでは無いですが、昔の同胞の奥様に、この術を使う方がいました。
一度、これより大きな水仙の花を見せて頂いたことが有ります。
オリジナルの術だと話していましたから、亡くなった今、この術を継ぐ者がいたとは…。」

「なんて名の者だ、

・なぜ、死んだ!

知っていたら教えてくれ。」

なぜカカシが、これほどこの術者にこだわるのか、男は不思議に思った。
「ん〜・・奥様のお名前は知りませんが、
ご主人は、確か…・
ぅ・・うみ・・うみの!海野氏、だったと、
お二人とも、あの九尾の戦いで戦死されたと聞きました。
たしか…お子様が一人いらしたとか・・」

真剣に話を聞いていたカカシは、あの少年の名と、自分と同じ時に大事な両親を失った過去の悲しみを改めて感じた。

「そうか…・、
あの子の両親も九尾の戦いで…・・」

悲しそうなカカシの顔に、あの過酷な戦いが思い出される。

「そうですね、あの戦いは戦死した者が多く出ましたから、
悲しい時代でした。
カカシ隊長、
もしかして隊長の彼女って、
海野氏のお子さんですか!? 」

暗い顔をしてしまったカカシに、話を切り替えるように明るい声で彼女のことを聞いてくる。

「・・…いや・・」

「いいじゃないですか、
彼女とどこで知り合ったんです。」

「・・違う・ 彼女じゃ・・…ない…・・
んだ…が・・」

なんと答えていいか、戸惑っているカカシに男は続けた。

「なんですか!隊長
まだ告白もしてないんですか?
早く告白しないと誰かに取られちゃいますよ。
それでなくても隊長は里にいる時間が少いんだから。」

年長者ならではの恋のアドバイスを得意げに話始めた。

カカシはますます困ってしまう。
勘違いもはなはだしい男に、自分の思いが何なのか分からないカカシが、どう説明していいか、

このての話題には縁がないカカシの頭はパニック状態で、任務で使う頭の回路は役立たず、まさに真っ白だ!

「あっ・・ちがう・・んだ、 恋とか…そう言う人じゃなく・・て、

ただ綺麗で・・気になっただけ・で、
オレみたいに汚れてないのが・・綺麗で、
そのまま綺麗に笑っていて・・欲しいと…
ただ、そう願っていただけ…で・・」

カカシのどもる言葉に、
肩を揺すりニヤニヤ笑いを堪えている男が、
さも面白そうにカカシに言った。

「隊長、綺麗だと思ったんでしょう。
それが、恋の始まりじゃないですか。
いいですね、隊長のパニくる姿は初めて見ました。
こんな話を隊長と出来る日が来るとは思いませんでしたよ。

俺は、その綺麗な人〈女子〉に感謝したいです。」

カカシの可愛い反応に上機嫌で話す。

「ちがう! 恋じゃない、
そうじゃなくて…・

だって、相手は・・
男の子…だし…・」

声を荒げて反撃したカカシだが、最後は消え入りそうなほど小さくなっていた。

「はぁ?・・
えっ!? 今なんて???・・・」

「だから、男だよ!
お・と・こ。

オレが見たのは男の子なんだ、
勝手に話を作るな!」
真っ赤になり、やけくそになって叫ぶカカシを、
男は目を丸くしポカンと口を開けて驚いている。
「ええっ! あっ!
てっきり女の子だと勘違いしてました。
ハハハハッ! まいったなぁ・・」

ガリガリと頭を掻きながら、カカシの微妙なニュアンスに戸惑った。

男から見たカカシは、
確かに恋をしているとしか見えなかった。
でもカカシの思っていた相手は、憧れの綺麗な男の子。
恋じゃない、…・・
のか?

いまいち釈然としないが、カカシを良い方向に変えたのは確かなので、性別なんてどうでも良いと思う。

「しかし、隊長が憧れるほど綺麗だなんて、
凄い美少年なんでしょうね。
隊長も十分美少年ですが、どんな少年ですか?」

普段は滅多に話さないカカシだが、少年の話を小さな声でポツポツと話出した。

「・・ん、び・美少年・とは、違うなぁ〜・、
日に焼けて、元気のいい男の子らしい男の子だった。
母親の術を完成させて喜んでいた。
その笑顔が無邪気で春風みたいに暖かくて綺麗だった。

オレには出来ない眩しい笑顔に憧れた・・
・・オレみたく、血塗れて汚くないから、
綺麗な者が変わらずに綺麗でいて欲しいと思っただけなんだ・・。」

カカシの言葉には、幼い頃から暗部として働いてきた自己嫌悪が含まれていた。
普通カカシの年なら、まだ下忍か、なって中忍。
暗部のような汚れ仕事をやる事はまずない。
年近い仲間とDかC、
あってBランクの任務についている頃だろう。

いくら優秀でも暗部とは過酷すぎる…
如何に心を傷付けてきたのか、改めて思った。

カカシが少年を綺麗と感じて恋に似た憧れを持ったのも、自分を醜い汚れた者だと思っているからかも知れない。

その少年のように当たり前の日々を過ごしたかったのだろうか。

今さらそれを出来ない事も分かっている。
カカシの気付いた心を思うと切ない悲しみが胸を刺した。

「そうですね、綺麗な者は変わらずにいて欲しいと俺も思います。

だから隊長も、その桜をみている綺麗な微笑みを私達に変わらず見せて下さい。

血でどんなに汚れても洗い流せばいいんです。
洗い流せない血はありません。
隊長は汚れてませんよ、
とても綺麗です。
憧れでも恋でも、なんでもいいんです。
好きな人がいる、
それだけで人は強く綺麗になれますから、俺が言っても説得力がないですが・ハハハハ・・。」

男の言葉にカカシは少し救われた気がした。

「さあ、もう寝ましょう。
明日も任務ありますし、隊長も早く寝て下さい。
長話をして申し訳ございませんでした。では、失礼します。」

最後に部下らしく敬語で礼をする。

「…ありがとう・・」

「いえいえ、ただの年寄りの戯言です。お休みなさい、隊長。」

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