この屋根の下

□ひとつだけの。
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「神崎と同棲することにしたから」

「…は?」


坊っちゃまのマンションの一室に呼び出され、突然の発言に私の口から間の抜けた言葉が出てしまいました。

坊っちゃまのめちゃくちゃな要求や発言には慣れたものだと思っていましたが、上には上があるものです。


前の「神崎と付き合うことにした」発言以来です。


最初はただのお戯れと思っていました。

今まで付き合ってきた女性と同じように。

なのに、日を重ねるごとにそれが冗談ではなく本気だと実感してしまったのがつい最近のことなのです。


ゆっくりと飲み込んだ不味いものを再び口に突っ込まれたようなもの。


本当はもっと早く止めなければならなかった。


神崎様とお付き合いを始めた坊っちゃまは変わられてしまったのだ。


「…同棲、というと?」


なにかの間違いかもしれない。

そう思いたかったのですが、坊っちゃまは真剣な面持ちでこうおっしゃいました。


「そのままの意味だ、蓮井。オレと神崎はひとつ屋根の下で暮らしていく。この先ずっとだ。…マジな話、結婚も考えてる」


さすがに目眩がしました。

力強く、「オレの人生全部くれてやるつもりだ」とまでおっしゃられた。

貧血を起こしかけている場合ではありません。


「…まさか…、姫川の名をお捨てになるおつもりで?」


その質問に、坊っちゃまは首を横に振られた。


「それについて神崎と話しあったんだ。…やっぱり親に認められて付き合いたいんだと。後味悪くしないために…」


それを聞いてホッとしました。

逆に言うのなら、旦那さまがお2人の関係を認めなければ坊っちゃまが同棲を始めることはない。


「そうだ…。まずは親父の説得だな」


思い出したように坊っちゃまは携帯を取り出し、早速旦那様と連絡をとろうとなさいます。


旦那様は毎日が多忙でございます。

通話ができるお時間があるのでしょうか。


しばらく待っていると、坊っちゃまが驚いた顔をなされた。

運よく繋がった様子です。


「…親父? ……神崎との関係を認めて、同棲させてくれ」


ブツッという音が聞こえました。

坊っちゃまは携帯から耳を放し、画面を睨み、強く握りしめました。


「切りやがった…っ」


危うく、「当然です」と突っ込むところでした。

欲しいものはなんでも手に入れようとする坊っちゃまは、すぐに行動に出ました。


「蓮井、すぐにヘリを出せ。親父のところに乗り込んで直接話す」

「…かしこまりました」


正直反対だったのですが、私は竜也坊っちゃまの執事。

主の要求を無下にはできません。


私と坊っちゃまは一緒にマンションの屋上にあるヘリポートへと向かいます。


「蓮井、現在の親父の場所は?」

「はい。ただいま京都で会議をなさっています」

「京都か…。…途中でジェット機に乗り換えるぞ」

「かしこまりました」


こうなれば、とことんやっていただきましょう。

そうすれば諦めもつくはずです。





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