この屋根の下

□ひとつだけの。
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「は!? もう行った!?」


京都に到着した頃にその連絡が入り、私は坊っちゃまにご報告しました。

会議は流れるように終わり、我々とすれ違うように東京へお戻りになったそうです。


「蓮井!」

「かしこまりました」


私達も急いで東京に戻りました。


そこでヘリに乗りかえ、急いで会社に向かいました。


「あ」


その途中、同じような大型のヘリとすれ違い、すぐに坊っちゃまが反応なさいました。


「親父のヘリ!!;」

「追いかけます!」


すぐに旋回してそのヘリを追いかけます。

坊っちゃまはスピーカーを手にとり、窓から呼びかけました。


「親父!! 話がある!!」


すると、あちらのヘリの窓も開き、旦那様がスピーカーを手に顔をお出しになられました。


「なんだ! 竜也! 私は今忙しい! 来年にしろ!」

「てめぇは年中忙しいじゃねーか! そんなに待てるか! 今、聞け!」


なんとシュールな光景でしょうか。


「まさか、あのふざけた電話のことか!? 突然なにを言いだすかと思えば…」

「そうだ! 神崎との付き合いを認めてくれ!」

「どこの世界に同姓との付き合いを認める父親がいる! 大体おまえは姫川財閥を継ぐ者だぞ!」

「海外じゃ同姓の結婚式だってあるんだぞ! 継いでほしけりゃ神崎との同棲を認めろ!! じゃねえと、このまま一生許してくれるまで付きまとってやる!!」


そろそろ止めるべきでしょうか。

スピーカーで怒鳴り散らしながらそのような会話、町中に聞こえていますよ、御二方。


結局旦那様には逃げられてしまいました。

ですが、さすが坊っちゃま。

めげません。


話せば長くなります。


なにしろ、学校をお休みなられ、2週間も旦那様を追いかけ続けたのですから。


「話を聞けー!!」


財力の続く限り、ヘリ、ジェット機、新幹線など、飽きるほど乗りまわしました。

ヘリの時のように面と向かって話さず、坊っちゃまの一方的な説得。


このまま一生続くのではないかと私も不安に思いましたが、2週間目の終わり、坊っちゃまは唖然となさいました。


「……そんな…」


携帯を手に持った坊っちゃまは銅像のように突っ立っておられました。


ついに旦那様が手をまわされたようです。


坊っちゃまの口座から、すべての財産が引き抜かれてしまったのです。


つまり、今の坊っちゃまは無一文、ということになります。


自転車のように扱っていたヘリですら使用できない状態です。


ヘリポートの上でガクリと膝をつく坊っちゃま。

お労しい。


しかしこれで諦めもつくはず。


高校生活も残りわずか。

このまま同棲が決まらず卒業したあとは、坊っちゃまと神崎様は密会するヒマもございません。

お2人の心の距離が離れるのも時間の問題かと。


「…蓮井」

「はい」


「帰ろう」。

そう言われるのを期待していました。

しかし、サングラス越しの坊っちゃまの目はまだ絶望していないことに気付きました。


「親父の次の予定…わかるか?」


私は正直に申しました。


「…今日の夕方、豪華フェリーで会議をし、そのまま北海道へ…」


それを聞いた坊っちゃまはすぐに踵を返して走りました。


「坊っちゃま!? どちらへ!?」

「手元の残り7万がある。これで親父に追いついてやる…! 蓮井、おまえはここまででいい。あとはオレが…」


そう言い残された坊っちゃまは私を置いてどこかへと走って行かれました。


「坊っちゃま…」





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