そんな空の下2

□魔王様双六で遊びましょう。
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夕食を食べたあと、男鹿はベル坊と一緒にベッドに寝転びながら漫画を読んでいた。

そこへ、窓から、アクババから降りたヒルダが入ってくる。


「帰ったぞ」

「おー、メシ食っちまったぞ」

「かまわん。ちゃんと「夕食は結構です」と伝えておいた」


朝から私事で半日以上魔界に帰っていたヒルダ。

その脇には、平たい箱が抱えられていた。


「? なんだ、それ」

「ああ…、掘り出し物だ。懐かしくてつい持ってきてしまった」


窓枠に腰掛けて靴を脱いで部屋におりたヒルダは、脇に抱えていた箱から中身を取り出し、床に置いた。

興味を持った男鹿はベル坊を抱っこして上半身を起こし、それを見下ろす。


ボードの上には、立体的な城や城下町などの西洋の街並みがあり、一瞬箱庭のように見えたが、よく見ると道には四角のマスが連なり、スタート地点と思われる隅にはガラスで出来た黒のサイコロと色違いの人型のコマがあった。

人間界にある人生ゲームのボードにそっくりだ。


「侍女悪魔や城の家臣たちの間でハマったボードゲーム、“魔王様双六”だ」

「魔王様双六?;」


思わず聞き返してしまう。


「やってみるか? 坊っちゃまにも存分に遊んでもらおうではないか」

「遊ぶって…、こっちの世界のソレとはやっぱ違うんだろ?」


過去に魔界のオモチャで散々な目に遭っているため、警戒している。


ヒルダは「ルール自体は人間界とそうは変わらん」と言って6つのコマをつかんで男鹿に差し出した。

男鹿は渋々ベッドから床に降りてそれを受け取る。


渡された6つのコマは、赤、青、オレンジ、緑、紫、ピンクの色違いだ。


「最初に下僕を用意」

「コマな」

「下僕に知った名前をつけてスタート地点に置く」

「コマな」


コマを下僕と言うヒルダにつっこみながら、男鹿は適当に名前をつけることにした。


「ピンクは…、イメージ的に古市だな。紫は、姫川。青が邦枝。オレンジが東条で…、緑が神崎だな。赤は…、オレでいっか」


名前を決めたところでスタート地点に並べていく。


「ちなみに、己の名前をつけると強制参加になるぞ」


並べ終えたところで、サイコロの具合を見ながらヒルダがそう言った。

妙なことを言うヒルダに男鹿は首を傾げる。


「あ? 心配しなくてもちゃんと遊んでや…、!!?」


言いかけた時、突然、とても強い力でボードの中へと吸い込まれてしまった。


「なんだああぁああああ!!?;;;」


放り投げられるようにボードの中に入り込んでしまった男鹿は、盤上にぶつけた頭を抱えながら起き上がる。

城下町の広場のど真ん中のようだ。

突然現れた男鹿に構わず、城下町にいる人々は広場を行き来していた。


「ここは…」

「ボードの中だ」

「うお!!?;」


真上を見上げるとそこに空はなく、自分の部屋の天井と、こちらを覗き込む巨大なヒルダとベル坊がいた。


「デカッ!!!;;;」

「貴様が小さくなってボードの中におるのだ」


冷静に言うヒルダに、非現実な状況に混乱気味の男鹿は「どーなってんだよ!!」と怒鳴った。


「ドブ男が。貴様が自ら下僕(コマ)になったのだろう。下僕に名前をつけてスタート地点に置くと、その人物が強制的にそこに連れてこられる仕組みだ」

「傍迷惑な仕組みだな!! 早く言えよっ!! 毎回そういうのマジでやめてくんない!? つか、コマが強制的に連れてこられるってことは…」


「男鹿?」


聞き覚えのあるその声にはっと振り返ると、見知った顔がそこにあった。


「東条…なんだそのカッコウ;」


明らかに工事現場の作業員のカッコウだ。

手には電源が入れられたままの削岩機が握られていた。

ドドドド、と騒がしく、盤上に穴が空くので男鹿はスイッチを切らせる。


「おいおい、デジャヴってやつか?」


続いて現れたのは、バスローブを身に纏った姫川だ。

髪を乾かしていたのか、イケメンバージョンだ。


「イケ川」

「姫川だボケ」


「男鹿、やっぱりおまえの仕業かよ!;」

「おお、古市。……メシの最中だったか?」

「見ての通りな!!」


現れた古市の手には、箸と茶碗があった。


「きゃっ! ちょっと! なんなのよ突然!;///」


今度は寝間着姿の邦枝が現れた。

こちらも髪を乾かしていたのか、濡れた髪をタオルで拭いていた。


「男鹿!! どうしてもっと早く呼び出さなかったんだ!!」

「ああ!?;」


数分前まで邦枝は風呂に入っていたのだろう。

タイミングについて古市は男鹿の胸倉をつかんで責め、あとで邦枝から“撫子”を食らった。


「本当にタイミングの悪い奴だなてめーはよぉ」


そして最後の神崎だが、こちらは完全に風呂に入っていたのだろう。

体と髪は濡れたままで、下半身は頭にのっけていたタオルでかろうじて巻いてきたようだ。

顔は完全に怒りを露わにしている。


姫川は男鹿の肩を軽く叩き、「ナイスタイミング」と親指を立てて褒めた。


「姫川!! その親指へし折ってやるからこっち来い!!」


見ていた神崎は姫川に怒鳴る。


「どいつもこいつも好き勝手言いやがって…、そもそもの原因は…;」


男鹿が言い訳しようとしたところで、真上のヒルダが「下僕もそろったところでゲームを始めるぞ」と告げる。


「ヒルダさん、デカッ!!;」と古市。

「ゲームってなんだ?」と東条。

「せめて着替えさせろよ!!」と神崎。


「騒ぐな下僕共。これから貴様らにはゲームをやってもらう。ボードから出て家に帰りたいのならば、このゲームをクリアするしか方法はない」


「は!? ふざけんなオレは降りるぞ!! ゲームをする気はねえからな!」と姫川。

「私も!!」と邦枝。

「始める前にちゃんと説明しろや巨人が!! 駆逐すんぞコラァ!!」と男鹿。


「騒ぐな」


同時に、ボードを揺さぶられた。


「「「「「ぎゃあああああ;;;」」」」」


中にいる男鹿達にとっては地震のようなものだ。

散々揺さぶられ、酔って盤上に伏す。


「おえ…、気持ち悪い…;」

「うぅ…;」


全員、顔が真っ青だ。


構わず、ヒルダはルールの説明を始めた。





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