リクエスト2
□シャッターチャンスは逃しません。
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その日は珍しいことがあった。
いやに外が騒がしいと思って教室の窓から顔を出したら、あのリーゼント主義の姫川が、下ろした髪を1つに束ねてキザったらしく肩にかけ、学校に登校してきたからだ。
本人がうんざりした顔をしているのにも構わず、聖石矢魔学園の女子達はアイドルを目の当たりにしているかのように黄色い声を上げた。
お友達になろうと近づく女子を微笑んでかわしながら石矢魔校舎に入ってくる。
「いやぁ、参った参っ…」
ドスッ!
「ぐっ;」
教室に足を踏み入れられる前に、教室のドアの前で待ち構えていたオレは腹を蹴って追い出した。
不意打ちに姫川は受け身も取れずそのまま廊下に尻餅をつく。
「ごほっ、え、なに、この唐突な理不尽…;」
「黙れ。帰れ。髪をパンにして出直して来い」
「うわ、セリフまで理不尽ときた;」
オレと同じ意見の奴もいるのか、オレの後ろで注目している石矢魔生の誰かが拍手した。
「どういう了見だ。ついにパン工房を卒業か?」
「意味わかんねーよ。直球でオレがどうして今日リーゼントじゃないか聞けよな」
立ち上がった姫川はため息をつき、理由を説明する。
聞けば単純な理由だった。
「ポマードがなくなったからだ。通販で頼んで、長くても昨日届くはずだったのに遅れやがって…。もう2度とあの通販サイトは使わねえ」
おかげで、髪も、群がる人間も鬱陶しい、と顔をムスッとさせる。
姫川としてはリーゼントでキャーキャー言われたいんだろうな。
髪を下ろしたらイケメンに大変身することの何が気に入らないのか。
少なくともオレは気に入らねえ。
そんな劇的ビフォアアフターなんざ求めていない。
「他のポマードは…」
「それもだいぶ前に言ったはずだ」
他の製品ではダメだ。
こいつのサラサラすぎる髪をまとめきれない。
つくづくもったいねえ奴だと思う。
「気に食わねえかもしれねえが、今日一日はコレだから」
姫川はオレの横を通過し、自分の席へと着席した。
見慣れない奴は「誰だ、あいつ」と騒いでいる。
「はぁ…」
オレも自分の席に着こうとすると、背後から肩をつかまれた。
「!」
肩越しに振り返ると、にこやかな夏目がいた。
「神崎君、ちょっと…」
「あ?」
夏目に呼ばれるままに、石矢魔校舎の裏に連れてこられた。
オレを呼んでいる人間がいるらしい。
到着すると、3人の聖の女子がいた。
「連れてきたよー」
夏目はこの女たちに、オレを連れてくるよう頼んだらしい。
「じゃ。頑張って」
「おい! 夏目!」
役目を終えた夏目は手を振ってとっとと校舎に戻ってしまった。
オレは夏目を引き止めようとしたが、その前に女子達に引き止められてしまう。
「あ、あのっ、待ってください!」
「……オレに何か用なのか?」
「はい…」
中心の女子は頷くが、もじもじしてばかりで要件をなかなか口にしない。
「ほら、早く言いなよ」
「でも…」
「あたし達がついてるから…」
なんだよこの展開。
もしかしてついにオレに女子からの告白だろうか。
満更でもなく、変に期待してしまう。
「あ、あの…!」
ようやく踏み切った女子は、ポケットから何かを取り出し、オレに突き付けた。
「姫川さんの写真、撮ってきてもらえませんか!?」
「…………は?」
突き付けられたのは、シルバーのデジカメだ。
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