リクエスト2
□執事さん、ご指導のほど。
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姫川から告白に頷き、付き合ってから2ヶ月以上が経過した。
ファーストキスは告白されたその日に奪われ、それから隙を突かれたり、そういう雰囲気になったら何回かされた。
最初された時も感じたが、気持ち悪くはなかった。
元は敵対していた相手だというのに、オレも自分でも気づかないうちに想いを寄せていたということなのか。
それともあれがファーストだったから実感がなかっただけか。
どちらにしろ、嫌悪感がないのはいいことなのだろう。
あの東邦神姫のオレ達が付き合っていることはごく一部の人間しか知らない。
夏目達とか。
広まっても困るので周囲の目を気にしながらあいつとデートしたことも。
人気がないところでは手を繋いだりもした。
それも、嫌じゃなかった。
満更でもない関係がしばらく続いた頃、姫川の様子がおかしくなった。
まず、ソフトタッチが多くなったように思える。
さりげなく頬や首筋、挙句の果てに尻を触ってきたり。
冗談かと思って笑って何度か軽くかわしてきたが。
次に、キスの回数も増えた。
こちらの呼吸が苦しくなろうがおかまいなしだ。
舌が入ってきた時はびっくりして思わず突き飛ばしてしまった。
そして、昨日もおかしなことがあった。
姫川と家デートしてた時だ。
「神崎…、今日は泊まってくか?」
「いや、まだ電車残ってるし、帰るわ」
直後、なぜか姫川はこの世の終わりのような顔をしていた。
*****
「神崎君って、酷なことするよね」
「あ?」
オレと城山と夏目は、オレの机を囲みながら昼飯を食べていた。
オレは自分のおにぎりを咀嚼しながら姫川の不可思議な行動について報告すると、夏目は憐みの目を向けながらオレが加害者みたいなことを口にした。
「…姫ちゃんかわいそう」
「な、なんだよ…」
オレ、姫川に何か酷いことしたか。
「神崎君、セックスって知ってる?」
「ぶっ!!;」
噴き出したのは城山だ。
「え…、うん」
オレは目をぱちくりして頷いた。
「あ、それは知ってるんだ、よかった」
「なに…」
「姫ちゃんがしたいのは、ソレなんだよ」
「どれ」
「だから、姫ちゃんは神崎君とセックスしたいってことじゃないの?」
オレは一度思考を停止させる。
想像しようとしたが、モザイクがかかってしまう。
「は?」
「わっかりやすいアプローチしてんじゃん。あの姫ちゃんもよく堪えたよね。見直した」
「ちょっと待て…。その前に、え、できるのか? 男同士で」
考えたこともなかった。
キスとかはできても、そっちはムリだろうとか思い込んでいた。
「…プラトニックな関係でいたかったわけじゃなくて、ただ単に知らなかっただけか…。できるよ、男同士でも。だって、後ろにちゃんと穴があるじゃない」
ケツの穴のことを言ってるのか、こいつ。
城山はもう放心状態だ。
城山なだけに真っ白になっている。
構わず夏目は、紙とペンを取り出して絵を描きながら説明し始めた。
「こう…ケツがあって…」
「絵に描く必要が?;」
「だって口で説明しても神崎君わからないでしょ?」
バカにされた気がするが、今は流してやる。
「オレ達男の子の下半身ってこうなってて…」
竿と玉と穴を追加する。
「姫ちゃんが入れたいのは、ここ」
「*」と描かれたところを丸で囲む。
オレは絶句してしまった。
男同士ってこんなところに入れるのか。
ひねり出すためだけに使うものかと。
「まあ、姫ちゃんがそっちに回るかわからないけどね。もしかしたら、神崎君に入れられ………いやぁでも確率は低いか」
何かひとりで納得したみたいだ。
「最近の姫川の様子がおかしかったのは…」
「このためだったってわけ。まあ、そろそろかな、もう終わってるかな、と思ってたけど。…頃合いなんじゃない? 姫ちゃんとしたくないなら、別れた方がいいと思うよ。いずれはしないといけない運命なんだから」
「……………」
突然判明したことがまだスッと胸におりてこない。
今までずっと姫川の様子がおかしいと思っていたが、
「そっか…。オレがおかしかっただけなのか」
「いや、普通は知らなくていいことなんだよ、神崎君?;」
ちなみに城山は下校時間になっても放心したままだった。
帰宅途中、オレは姫川にメールを送った。
“今日、泊まりに行ってもいいか?”
数秒後、
“すぐ迎えにいく!!”
「早いなっ;」
今までわかってやれなくて申し訳ない気持ちになったが、腹をくくって姫川の家に行ったオレは、のちに後悔することになる。
やはりオレはおかしくなくて、おかしかったのは姫川の方だと。
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